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水の中でのnetfilmsのレビュー・感想・評価

水の中で(2023年製作の映画)
4.2
 東京フィルメックスの最前列右寄りで観たのだが、明らかにピント(焦点)が合っておらず、映写環境の不具合だと思い隣の人に話しかけたら、「これが演出らしいです」とのことでしばらく我慢して観ていたのだが、ピントは最後までぼんやりしたまま。コロナ禍で自分でカメラすら回し始めたホン・サンスのカラー・コーディネートは『あなたの顔の前に』では緑の草むらの発色が明らかにおかしく、『小説家の映画』においても不自然に足元が切れた構図のおかしな映像が散見された。これはホン・サンスの居直りというべきか、プロのカメラマンが撮っているのではないのだから、ある程度許容しろとのメッセージにも読み取れたのだが、今作は流石にダメというか制作側が撮り直しをさせなければダメな案件だと思う。それでも屋内に引っ込めばISOレベルも落ち着いて来るのだが、戸外に出れば光量の関係で全てがハレーションだらけのボケみのような映像になってしまう。

 おそらく声からしてシン・ソクホだと思われる俳優が今回は監督を志し、短編を取りたいと港町の避暑地に後輩の俳優とカメラマンとを誘うのだが、3人の間柄が何とも微妙で、モラトリアムを引き摺ったような監督とカメラマンによる女優の引っ張り合いによる恋の鞘当てを、いつものホン・サンスの飄々としたやり取りで延々と見せられる。役者とカメラマンの主従関係の入れ替わりは『小説家の映画』と同工異曲で、それ自体がメタ的なフィクションにも思え、おそらく女優が夢で見たとする2人のおふざけは現実と虚構とのフックとなる。結局、映画製作は遅々として進まず、最終的にシン・ソクホが目指した即興上の脚本はデジャブのような清掃人とのやりとりの反復を映画として結実させたに過ぎない。中盤までは女優とカメラマンに嫉妬心を抱いていたはずのシン・ソクホも途中からは抜け殻のような姿になり、最後の圧倒的な存在の欠如というか不在。そこにホン・サンスによる意味不明な逆回転のアシッド・フォークが流れるという商業映画の範疇にはとてもじゃないが入れることは出来ない何ともとち狂った作品である。
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