洗練された演出に、質の高い演技、感情揺さぶる音楽。このすべてが混ざり合い、人間の醜さ、哀れみ、憎しみなどを凝縮した何かが心をわしづかみにするのです。されました。スコアも最大の５つ星。
全盛期を謳歌した時代の京劇。客席に紛れ込んだ養成所の子供が、迫力ある覇王の“立ち回り”と“見栄”と歓喜する観客の熱圧に圧倒され、感極まるシーンがとにかく好き。そしてこの子が思わず口にするセリフには何度再鑑賞しても泣いてしまいます。
時代は流れ、文化革命によって京劇は徹底的に粛正。この歴史ある伝統を収束させてしまう破壊力も凄まじい。
本作は時代の大激流に飲み込まれる3人が織り成す三角関係が物語全体の核になっています。
まずは覇王を演じるチャン・フォンイー。セリフ回しがハキハキとして中国語わからなくても耳心地いい。舞台で見せる“見栄”は迫力で心臓を貫かれたような衝撃を受けます。彼が大衆暴動のターゲットとなり精神的に追い詰められるシーンでは、狂気に満ちた迫真の演技に度肝を抜かれました。
そして女形として別姫を演じるレスリー・チャン。役に入りすぎて舞台と現実の境界線が曖昧になってゆく様を演じます。稀代の女形へと進化する幼少期の分岐点がくっきりとあってこの演出も効果的でした。
とりわけ別格なのがコン・リーでした。主役でなくても彼女が加わるだけで作品の風格がグッと上がるような気がします。ほんと素晴らしい役者ですね。コン・リーがラストに見せる絶望した時の顔は私にとってのオールタイムベストかな。
