レインウォッチャー

ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケンのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

2.5
日本ではしれっと配信スルーになっていた、DreamWorksの'23年新作。

海の魔物といわれるクラーケン一族(ピンとこない方は、ジャック・スパロウを呑みこんだヤツって言えば伝わるだろうか)であることを隠しながら地上の高校で生きる少女ルビーの青春冒険コメディだ。

直近のDWといえば『長ぐつをはいたネコと9つの命』が超・絶・大傑作だったので、Disney不調の機を制してコレは来るか時代?獲るか天下?と思ってたのだけれど、まあそんな単純にはいかなかったようである。配信スルーは良計かも。

ストーリーとしては今やベタといえる多様性×10代の通過儀礼譚で、アウトサイダーの少女が自身の思いがけないルーツを知り、伝統とマイウェイの間で葛藤したり親に反発したりしつつ、プラスもマイナスも受け容れて成長する…って、おー、その特徴はPIXARの'22年作『私ときどきレッサーパンダ』やないかい。

『わたレッ』があまりに傑作すぎるというのもあるにせよ、これは流石に分が悪い。
望まない能力の覚醒は、両作品ともに女性の第二次性徴と重ねられているわけだけれど(今作にも「ママも知ってたの?なぜ教えてくれなかったの?」なんて台詞がわざわざある)、キャラの個性、血縁にまつわる業の深み、能力に象徴させる詩的な見立て、あらゆる面において踏み込みの深さで負けている。深海から来た割に、これ如何(イカ)(タコ?)に。

あと今作には、「赤毛で」「白肌の」「美女マーメイド」というキャラクターが、それも《悪役》として出てくる。誰がどう見ても「これなんてアリエr(銛グサァ)なルックスに、公開当時ちょいバズりしていた。
ちょうど昨年は本家『リトル・マーメi(渦ゴボォ)のリメイクが賛否で割れてたこともあっての事象、というか公開時期も合わせに来てる感が確信犯的。

もともとDWは『シュレック』の時代からDisneyクサし芸に定評があって、今作も個人的には良い味の皮肉を期待していたのだけれど、結果的にはこれもイマイチ決まってなかった。
人間の歴史のうえでは悪者扱いされてきたクラーケンに対して、人気者のマーメイド。でも実はそれは《逆》だった…というフックは面白いと思う。ただ、その先が何もなくて、設定上《ただ逆》なだけなのだ。どうせネタにするなら、たとえば本家が見失った新たな魅力を見つける、とかの方向へ昇華すべき。残念ながら、今作はそこまでに至っていない。

クラーケンは善玉でマーメイドは悪玉、ハイじゃあそんな奴らは排除すれば一件落着…これって、思想として相手とまったく変わらないよね。
確かに今作に登場するマーメイド・チェルシーは悪だったかもしれないけれど、彼女の一族が一様にそうだとは限らない。ルビーはそのことに誰よりも気付ける存在だったはずなのに、たたみ方がめちゃくちゃ雑なのだ。ママさん・ババさん、二世代連続で教育ミスってますよ。

というわけで、子供向けにしても子供だましというか、『わたレッ』以降の世界では止まって見えるパンチなのである。
とはいえ一鑑賞者としては、今後もDisney/PIXAR連合とDW義勇軍のどつきあいは生暖かく見守っていきたい。100周年をドンずべって脊椎が砕けた今は間違いなく好機、がんばれDW。『カンフーパンダ4』はとどめのキックとなるか?

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キャラデザは好みがわかれそうなところではあるけれど、ツル・プニを追求した質感はおもしろい。アニメーションはKALDIの一角をひっくり返したようなカラフルさで、ネオンカラーは最近の流行りだろうか。