レインウォッチャー

マディのおしごと 恋の手ほどき始めますのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.5
年代、性別、貧/富(※1)、地元民/移住者、陽キャ/陰キャ、さまざまな境界を越える奇縁友情譚。これは案外、パワーバランス等のチューニングをいじくれば『カラオケ行こ!』に近かったりして(特に序盤)。

実利のため、引きこもりがちでナイーヴな箱入り青年を篭絡するミッションに挑むせくしーねえちゃんのマディ。はじめ楽勝に思えた計画は、想定外のギャップの数々からうまくいかない。
その過程で起こるギャグの数々は冴えてるし、J・ローレンスが「今の彼女しか」できない役を楽しみながら演じているのが伝わってくる。

その後はセオリー通りなちょいえろラブコメ的流れへと移っていくわけだけれど、最終的には2人がお互いの傷を知って、共に成長する方向へと繋がり、後味は爽やかだ。まったく違うように思えた彼らが、どちらもそれぞれの理由でこの場所に縛られていたことを知る。

マディと青年の間に芽生えたものが恋愛だったのか、友情だったのか?
あの初ベッドはセックスに入れて良いのか?
ホール&オーツ『Maneater』をどんな曲として捉えるか?

これらはどれもが曖昧で、まさしく他人どうしの人生や価値観を隔てる差のようでもあり、いかようにも答えはつけられるだろう。しかし確かなのは、この夏はそんな曖昧なものが集まって出来ていて、そのイビツさゆえに2人にとって忘れ難い時間になったということ。そして、これからも灯台のように彼らを照らし続けるであろうことだ。
過ぎ去り、変わることを止められないもの。それでも残っていくもの。その眼差しはやはり『カラオケ行こ!』に似ている気がする。

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日本語吹替版、マディ役は沢城みゆき様でご褒美すぎる。

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※1:マディを雇う青年の両親(=富裕層)は、疲労困憊のマディが「私が上に上がる?それともあなたたちが下りてくる?」と投げかけた問いに対して「上がってきて」と(階段の上から)事も無げに返す。彼らは悪人というわけではまったくないけれど、その無自覚に根深さがある。ちょっと惜しいのは、このへんの種はあまりうまく回収されなかったことだろうか。