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窓ぎわのトットちゃんのドントのレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.1
 2023年。よかった。大変によかった。昭和10年代中頃の日本、元気と好奇心がいっぱいすぎて「普通の小学校では扱いきれません!」と言われた少女・トットちゃんが通いはじめたのは電車が教室で自由教育を実践する懐の深い学校。たくさんの子と知り合って、わけても小児マヒで半身が不自由な少年とは仲良くなって、トットちゃんはのびのびとした毎日を送るのだった、が……
 原作は黒柳徹子の自伝、未読。おそろしく安直な表現を使うなら、ジブリ並みの時代考証や作画・背景(背景美術には『トトロ』の男鹿和雄がいたりも)をたっぷりと注ぎ込んで戦中戦後の子供の生活を切り取った、それはもう大変な力作であった。ジブリ並み、とは言え宮崎駿のファンタジーやダイナミズムはない。厳密さやリアリズム、「顔」の表現とかは高畑勲っぽいかもしれない。渋くてしっかりしているのである。
 子供のイマジネーションと夢の他には派手な場面も皆無だけれど、重戦車の如くズンズンと凄い「アニメ」が眼前に広がる。隅々までアニメ作りの職人たちの手が行き届いている。木の机の肌触り、秒しか映らぬ電車の窓の鍵の質感、草木、桜の花。トットちゃんのワイワイ感、足を引きずる少年の動き、モブに至るまで十全に描かれていてとにかく凄い。凄い。
 このまったきアニメーションでもって、相当にアクティブなトットちゃんの様々な行動、時にワガママ、時に「蛮勇」としか呼べぬ行為を描いていく。汲み取り式のトイレにお財布を落とした! ってんで己ひとりで長い柄杓を使って汚物を汲み出し財布を探す(大人には頼らない)(汚物はとりあえず地べたに出す)。小児マヒの子を「木に登らせたい!」と梯子を持ち出しこどもふたりでヨイショヨイショと上がろうとする。汚いしキツいし危険である。3Kですよ。キッズがやってるから4Kですわ。
 しかしこれらの危なっかしい行為、先生は「後で綺麗にしといて……」と言うだけ。木登りに関しては大人たちの目こそないが「よくないことをしている」というトーンは作中にない。微塵もない。こどもの小さな冒険として力強く描かれている。何だったら肯定すらされている。両親も先生も、大人はとにかく包容力があって、こどもの世界をできるだけ全肯定しようとするのである。こういう、大人がこどもをきちんと肯定する映画が今、どれだけあるだろうか。ひとつひとつのシーンでなんだか涙が出て止まらんかった。
 とは言えその肯定感も、時代の流れと共に失われていく。いきなり失くなるのではなくズルズルと削られていくのである。この辺のズルズル感がとても怖い。そうして、一応は守られてきた(トットちゃんたち)こどもの世界がある一撃でひび割れ、そこから「時代」という現実が流れ込んでくる/見えてくる/流れの中に呑まれていくシークエンスは圧巻である。またそういった時代の話だけではなく、大人は大人の、こどもはこどもの葛藤や哀しみがあることも紡がれる。
 説教臭い映画ではない。ないが、圧倒的なアニメパワーでもってギューッ、と胸倉を掴まれるような思いのする作品であった。これの公開初日が12月8日というのもまた巡り合わせであろうか。切実で、誠実で、力強く、哀しくて、たくましい、小手先感や浮わついた所の一切ない「ガチ」のアニメーションであった。いやちょっと、凄味がほとばしる映画ですね。言い方は変だけど贅沢、豊穣な逸品です。ぜひ劇場でご覧いただければ、と思います。
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