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フープ・ドリームスのGreenTのレビュー・感想・評価

フープ・ドリームス(1994年製作の映画)
3.5
バスケットボールのプロになって、貧困から抜け出そう!と夢見る黒人少年たちを追ったドキュメンタリーです。

舞台はシカゴの黒人居住区。ゲットー=プロジェクト=スラム=フッドなどと呼ばれる黒人居住区にはバスケットコートがたくさんあって、有名高校のバスケ部のスカウトがやってきます。

14歳の黒人少年ウィリアムとアーサーは、アイゼア・トーマスと言う有名なNBAプレーヤーを輩出したセント・ジョセフ・ハイスクールにスカウトされ、夢を叶える第一歩を踏み出すのですが、これが紆余曲折で興味深く、しかも黒人差別の厳しい現実を突きつけて来ます。

しかし社会問題などの小難しい話に入る前に、この子供たちのバスケがすごい!もちろんNBAの試合も見たことあるし、こうしたフッドでプレーするすごい黒人のアマチュアのバスケも見たことあるけど、その中でも一番すごいと思った。それはまだティーンで身体が柔軟なせいなのか、もう飛ぶように軽々しくプレーする。この感じは成人ではもう出せないと思う。

そして後々出てくる、ウィリアムとアーサーの高校の対抗試合は、めちゃくちゃ盛り上がる!私は特にバスケファンじゃないのですが、まずトーナメント形式であると言うことと、ウィリアムとアーサーの生活がかかっているので、2人が実力を発揮できずにシュートが入らないと「うがああ!!!」ってマジで悔しい。ドキュメンタリーなのに実際の試合より手に汗握るってのが笑った。

2人共鳴り物入りでスカウトされたにも関わらず、スカウトしてくる学校はみんな白人のいい学校なので、自分が住んでいるゲットーから1時間半もかけて通わなければならない。特にアーサーは、今まで一度もゲットーの外に出たことがなく、白人の住む地域を見て、あまりのキレイさにビックリする。

こんな格差があるんだ、こんな生活をなぜ俺たちはできないんだ?と子供心に思ったことだろうなあと察するのですが、それだけでなく、白人と接したことがあまりないので、高校の練習で白人の少年たちに慣れなければならない。

アーサーの父親は肉体労働しかできず、しかもその仕事は次々にリストラに会う。そのせいで強盗をし、クスリにハマり、刑務所に入る。母親も最低賃金の仕事で、身体を壊してクビになったり、とにかくこの家族は私が思う「典型的な黒人家族」で、「いくら頑張ってもどうにもならない」家族。アーサーの学校は学費を半分受け持ってくれるんだけど、その半分も払えず、結局アーサーは地元の公立高校に転校せざるを得なくなる。

家庭を支えられずおまけに刑務所に入った父親はあとですごい反省していたけど、こんだけクビになって仕事が見つからないんだったら、強盗もするだろうよ、と私は気の毒に思った。

ウィリアムはラッキーなことに、学費を全て出してくれる白人のスポンサーを見つけ、お金の心配がなくなる。「ああ、こうして明暗が別れてしまうんだなあ」と思いきや、ウィリアムは膝を痛めてしまう!!

なんとも切ない。バスケットボールができなかったら、奨学金とかスポンサーとか、どうなっちゃうんだろ?結局、才能があっても、黒人の運命は白人次第なの?なんかそういうプレッシャーを感じながらバスケットをやることに魅力を感じなくなってくるウィリアム・・・・

だけどウィリアムはもう子供がいて、なんとかいい生活をしたいので「じゃあバスケやめます」ってわけにも行かない。そういうウィリアムが試合でシュート入らなかったりすると、本当にこっちまで気持ちがどよんどよんしてくる。

その頃、冴えない公立高校に行かざるを得なくなったアーサーはイケイケで、ガンガン地区戦に勝ちまくる。普段は全く注目されない公立高校戦なのに、アーサーの目覚ましい活躍のおかげでメディアの注目を浴びる。

このアーサーの公立高校の試合がもうめちゃくちゃに盛り上がる。何十年振りかの大活躍らしく、生徒たちもすごい盛り上がってるし。だけど、この子たちが試合している体育館が、セント・ジョーンズに比べてボロっちいのが、人種間格差をありありと浮き彫りにする。

あと、ウィリアムもアーサーも、バスケができればいいってもんじゃなくて、いい大学にスカウトされてもSATという学力テストの点数が悪いと入学許可が出ない。しかしゲットーの学校は先生が雇えず、国語のクラスは1年から3年までで一つしかないなど、ここでも人種格差で、どんなチャンスを与えられても結局黒人が成功する可能性なんてないんじゃないかと思わせる。

また、ウィリアムの種違いのお兄さんも、すごいバスケが上手くて高校にもスカウトされ、大学にも奨学金を貰って行ったんだけど、すごい反抗心の強い子でコーチと上手くやって行けず、結局辞めちゃう。で、その後、警備員とかそういう仕事しか見つからず、またそういう仕事は要らなくなるとすぐクビになる。

つまり、バスケで成功でもしない限り、本当にゲットーに住んでいる黒人たちには希望のある未来なんてなさそう。だけどバスケで成功するにも、馴染まない環境で、勉強もできて、周りとも上手くやって、色んなことに気を使わなければならない。

白人の子供が14,5歳の時にそんなプレッシャーにさらされるんだろうか。なんとなく高校に行ってなんとなく大学に行って、大学ではパーティしてマリファナばっかりやって、大学卒業後は日本で英語教員しながら遊んでた私の元夫は、今、大手の会社で重役やってるよ。

『ボーイズ’ン・ザ・フッド』や『ポケットいっぱいの涙』などもかなりリアルで愕然としたけど、このドキュメンタリーはそれにまた一歩踏み込んだ現実を見せてくれた。1994年の映画だから、30年近く前の映画なんだけど、ゲットーの環境って、多分今でもあまり変わってないんじゃないかと思う。

私が観たDVDには2014年だかに作られたウィリアムとアーサーの「その後」のフッテージも入っていたけど、結局2人共NBAには入れず、ウィリアムはあんなに出たがっていたゲットーから抜け出すことはできず教会の説教師になり、アーサーはこのドキュメンタリーのロイヤルティで安全な地域に家を買うことができたけど、自営の仕事でなんとか口糊をしのいでいる。

あ、あと、ウィリアムは29歳の時に、マイケル・ジョーダンの練習相手として選ばれて、そんなトシでも才能を認められて、NBAに入れるところだったんだけど、その時も脚を故障してしまったんだって。なんとも不運というか、こういう人は人種関係なくいるよね。

それと、ウィリアムのお兄さんは射殺され、アーサーのお父さんも昔の犯罪者仲間に殺されたんだそう。『ポケットいっぱいの涙』で「黒人男性の21人に1人は殺人で亡くなる」っていうキャプションが出るんだけど、これは現実なんだなあとやるせなくなった。いくらなんでもこういう格差はなくせないものなのか。
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