けんいち

12日の殺人のけんいちのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.7
とても地味な内容で眠くなる人もいるかも知れませんが😅しみじみと好い映画です。

物語の中にしか存在しないヒーローやモンスターが大活躍したり大暴れしたりする映画も勿論楽しいし大好きですが、この映画に登場する人々からは日々を生きてる人間の息づかいが間違いなく聴こえてくる。

善人でも悪人でもない(あるいは善人でも悪人でもある)人々の溜め息やぼやきや悲しみが淡々とした語り口の中から立ちのぼってきます。
彼らは私や私の隣人たちによく似ている。
私は鏡に映る自分の顔を急に見てしまったような自虐的な快感を覚えるのです(私や私の隣人はフランス人ではありません。念の為)

若い女性が無惨に殺され、刑事たちは彼女の周囲の人々に話を聞いて回る。
容疑者が現れては消えていく。
焦りや苛立ちを滲ませながら刑事たちはまた話を聞いて回る。

この映画はほとんどそれだけで構成されたような作品です。
捜査班の班長を演じるバスチャン・ブイヨンの何かにじっと耐えているような物静かな佇まいが素晴らしい✨

心に残るシーンがたくさんありますが、母親が刑事から娘の死を知らされる場面が深く印象に残りました。
単なる怒りや悲しみではなく、愛する者を突然失った時の混乱と間違いだと思いたい感覚。作り手が誠実に考えを重ねたことが感じられるシーンです。

ここから少しネタバレ的なことを書きますが、この映画の展開からデヴィッド・フィンチャー監督「ゾディアック」やマーティン・マクドナー監督「 スリー・ビルボード」を連想してしまいますが、まさにそれ系の終わり方をするんですねえ。
ここに不満を感じる観客もいると思います。

実は秘かに猫ちゃん映画でもあります😹