みや

星くずの片隅でのみやのレビュー・感想・評価

星くずの片隅で(2022年製作の映画)
5.0
2023.9.30劇場にて。
予告編でのヒロインの娘(ジュー)が口紅を塗るシーンの愛らしさに惹かれて鑑賞。そのような微笑ましいシーンやコミカルなシーンも交えながら、コロナ禍の香港の複雑な状況を、複雑なまま鑑賞者の心に届かせた力量が見事。民主化デモがコロナと共に鎮圧されるような状況になる中で、金持ちは海外に移住し、香港に残る人々は中国との微妙な距離感を抱えつつ、苦しくてもしたたかに生きようとしている様子が、過不足なく描かれている。
シングルマザーのヒロイン(キャンディ)と娘(ジュー)も、ちょっぴりズルをしながら、経済的には厳しくても、明るさを失わない。「経済的に苦しい設定なのにヒロインがオシャレすぎ」という意見もあるかもしれないが、私は、どんなに苦しい生活でも、自分の「好き」を諦めないポジティブさに好感を持った。(そもそも、できる範囲の中で、したいオシャレをするのは基本的人権だと思う)

ただ、この映画の芯は、主人公ザクの誠実さだ。タトゥーがバリバリ入った腕を見て、瞬間的に、勝手にザクをヤンキー判定してしまった自分の偏見を反省した。
法を犯す行為については、決してうやむやにせずにキャンディには真実を求めるものの、立ち入り調査員からは逃し、顧客に対しては言い訳せずに経営者としての責任を負うザク。ラストシーンの、誰が見ていなくとも、彼自身のプライドが感じとれる行為も光り輝く。

ザクの誠実さは、ズルさを生きる術にしてきたキャンディにも伝染していく様子が丁寧に描かれる。そうしたキャンディの胸の中には、目の前の損得ではない、人としての尊厳への気づきがあったのだろう。

これからもそれぞれの生活は楽にはならないかも知れない。3人は親子としては生活をしないかも知れない。けれど、お互いを大切に思いながら、これまでよりもきっと清々しい毎日を送れるだろう。そんな爽やかな思いがする良作。

個人的には、2023年の年間ベスト映画。

見放題ではないが、配信が始まっているので、是非おすすめしたい。
みや

みや