ゑぎ

彼らは9人の独身男だったのゑぎのレビュー・感想・評価

彼らは9人の独身男だった(1939年製作の映画)
3.5
 冒頭はポーランド人の伯爵夫人-エルヴィール・ポペスコの邸。執事とメイド。執事はロベール・セレル、メイドはポーリーヌ・カルトンというギトリ作品常連の2人だ。カルトンが、夫とは28年前に結婚したが、11年前から見ていない、と云う。また、伯爵夫人の愛人は、ベルギー人で映画会社の所長だ。このあたりの設定は終盤で効いてくる。

 ギトリの登場はレストランで友人からカタギになるように云われる場面。本作のギトリは詐欺師か。向かいのテーブルにクダンの伯爵夫人が来る。じっと見るギトリ。一応一目惚れの演出なのだろう。怒る伯爵夫人。そこに、不法滞在外国人の退去令のニュースがもたらされる。レストラン内の外国人たち(店員らはスペイン人)が皆騒ぎだす。それを見て、何やらひらめくギトリ。フランスに残るためにフランス人と結婚したがる女性が増えるだろう、そういう女性に偽装結婚を斡旋するサービスは金になるだろう、相手が老人だと何かと女性側のリスクも低いだろうから、あるいは、貧乏な老人なら集めやすいだろうから、独身男性の年寄りを集めた老人ホームを建設しよう、というアイデアだ。

 と云うワケで、9人の老人たち、皆ルンペンのような貧乏人ばかりが集められる。この召集場面は『七人の侍』の序盤みたいな位置づけだ。広告を見てやって来た女性たちにジジイたちをくっつけて行くのだが、女性たちは誰もチェンジを願わない、というのも呆気にとられる。しかし目的的に双方どうでもいいということなのだろう(別に結婚生活を営むワケではないのだから)。この女性たちの中には、冒頭の公爵夫人もいるし、他に、ジュヌヴィエーヴ・ギトリやマルグリット・モレノなんかもいる。また、老人ホームのスタフの2人の看護婦もとても綺麗だ。

 さて、9人の老人の内、7人まで偽装結婚が成立した時点で、謝礼金を手にした老人たちは、ホームを脱走し、本来ルール違反である、書類上の妻に会いに行く、というプロットになる。本作の面白い部分は、この後半だと云えるだろう。いくつかサワリだけ書いておくと、「妻」の自宅は晩餐会の最中で、臨時の執事と間違われるが、終始泰然としているお爺さんのエピソード。南米の歌手-ジュヌヴィエーヴ・ギトリと彼女に恋するジョルジュ・グレイの挿話では、老人は、すぐに離婚し、さらに認知する(であれば不法滞在にならないのだろう)、と云う。これは『幸運を!』を想起させる。また、訪ねた「妻」にはセクシーな「娘たち」が沢山いて驚かされるが妻は娼館の女主人だったという挿話。あるいは、元会計士の老人が「妻」に脱税方法を教えて喜ばれる挿話。他にも中国人ダンサーの女性のクダリ。すごい柔軟ダンスを披露するのだが、老人は一緒になって踊って観客にウケるのだ。あとはマルグリット・モレノを訪ねたら、娘2人の婿が旧知の警官だったので、自由を選ぶ老人。

 そして、冒頭の伯爵夫人を妻にした老人と、サッシャ・ギトリもからんだ顛末がクライマックスで、この作劇の着地の手管には舌を巻くのだが、しかし、その前に、メイドのポーリーヌ・カルトンに見せ場を作るところが素晴らしい。このカルトンの見せ場の部分が、本作中、一番可笑しい場面だろう。
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