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AIR/エアのOtoのレビュー・感想・評価

AIR/エア(2023年製作の映画)
4.0
やる気が出るお仕事映画。広告関係者はもちろん、プレゼンの機会があるようなビジネスマン全員に薦められる。

「ナイキがどのようにジョーダンを口説いたか?」(=エアジョーダンがどのように生まれたか?)を描く倒叙型ドラマ。

【ブランドは動詞】
ブランド論でよく言われる「アップルは反抗し、IBMは答えを出し、ナイキは熱く語る。ブランドは動詞なんだ」という格言があるけど、ナイキも結局は「反抗」のブランドだなと感じた。"Just Do It."は「いいからやれ」。

結局、革命を起こしたクリエイターはみんなタブーを冒してきてるし、自分がフロントに立って人を動かしてる。当たり前だけどルールに従っていると、既存のカーストが覆ることはないのか...。

【ギャンブル×戦略】
冒頭シーンがギャンブルから始まるのも主人公ソニーを象徴している。最近見かけた好きなツイートで「運が悪い人はいつも同じ人と同じ場所で同じことをしてる、運が良いはいつも違う人と違う場所で違うことをしてる」というのがあるんだけど、条件を変えて試行回数を増やした人が勝つ世界なんだな...。思えばソニーはノースカロライナにふらっと行ける人だし、運が良いというのは挑戦が多いということか。

とはいえ弱いブランドだからこそ戦略(=戦いの省略)がしっかりしていて、「選手のブランドを作る」っていうコアアイデアは競合と比べると圧倒的にユニークな提案。
事業会社だからできることだし、逆転のアメリカンドリームを狙うという意味でブランドのパーパスと選手のパーパスがしっかり一致してるのも強い。歴史と伝統のコンバース、家族経営で外資のアディダスにはできないこと。

ブランディングや広告の仕事ってエアジョーダンに関わらず、綱渡りみたいな側面が常にあって、キャスティング一つをとっても上手くいくかわからない中で可能性に賭ける場面が出てくるし、上司やマネージャーなどなどいくらでも障害があるけど、だからこそロマンがあるし、なんか自分の仕事を少し誇らしく思える作品だった。
3人に分散させたいって言われるのめっちゃリアルだし、「レベニューシェアってそんなに大変か?」って最初は思ったけど、「前例が生まれると全員に求められてしまうのか…」って後から気付いた。

天才にはなれなくても天才と働ける仕事だ、という気づきが『左ききのエレン』であったけど、本当にそうだな…。
「落ち着いてるから」がキャスティング理由なの面白いけど、大谷くんみててもやっぱり人格の方が重視されてる気もする。

【靴は履くことで意味が生まれる】
単純に靴のブランドへの解像度が上がるというだけでも観ていて楽しい。ナイキのシェアがあんなに低かったのか!とか、NBAに色の規定があった上でそれを破ったのか!とか、面白いファクトがたくさんある。

ファッションへの関心が薄いので、靴へのこだわりとかほとんどないんだけど、こういう作品をみると、やっぱりブランドの価値観とかビジョンで自分の持ち物を選びたいと思う。

突然の「好きなNIKE広告」TOP3!
・グラフィティをストアに https://youtu.be/g0q_cn9rbBQ
・大阪なおみ×NIKE https://youtu.be/I56C1sK-EqA
・自分と勝負する競技場 https://youtu.be/JN7lClrTUpE

ジョーダンの「Failure」のCMも有名過ぎてパロディされまくってるけど、やっぱりNIKEの思想とアクションは一貫してる。
何度も出てくるブランドのルールブックのコピーがどれも良すぎて、自分もマイルールブック作ろうかなと思ってしまった。

とりあえずやる気出たので、今から企画頑張ろう...。


【その他気になったこと】

・「まだ大した選手ではないけど、NIKEが獲得するには難しい」っていう絶妙なランク設定をしてるのが肝だな。「契約できたぞ!」って歓喜するほどのニュースなのかな?3人に分散しようとか言ってたのに?とか引っ掛かったけど、やっぱり売れる前から強気でお金もらいに行く自信は大事。

・『グッドウィルハンティング』のファンとしては二人の共演みてるだけで熱くなってしまう。おじさんになったな〜それでもこうやって共作し続けてるのかっこいいな〜と思った。

・代行マネージャーと電話で喧嘩するシーンが一番ウケてた。引いてしまうくらいの罵詈雑言だったけど、全然反省していないソニーの構図が面白いのかもしれない。

・NIKEのCEOも仏教のルーツがあるのか、ジョブズと似てるな〜とか思ったけど、フィルはオニツカタイガーと出会ったのが創設のきっかけだったらしい。「ミヤギ」はスラムダンク の宮城なのか...?時代が合わなくない...?

・プレゼンのムービーがループでまぁまぁひどかった。ジョーダンの表情を映していないから表現しづらいんだろうけど、その後に即興スピーチをして伏線回収するためにあえてつまらなくしてる感があった。

・冒頭で全然競合の知識がないのなんだったんだろう。むしろ研究熱心な人に見えたし、競合のプレゼン戦略を完全に理解してたのと若干矛盾を感じた。
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