しの

シアター・キャンプのしののレビュー・感想・評価

シアター・キャンプ(2023年製作の映画)
3.1
日常生活に馴染めない、或いはクィアな子どもたちの居場所として演劇合宿を描くのは面白かったし、そういう人々が寄り集まった自己表現の集積としてクライマックスのミュージカルに繋がるのがアツかった(ディズニーより試写に招待いただいたので鑑賞)。

モキュメンタリー形式だが、同じシーンでカットを結構割ってるし、展開は劇映画っぽいのでそこの説得力はない。ただ、多くの場面を即興演技で構成したことによる子どもたちのエネルギーに助けられていると思う。真面目に取り組むこと、熱心であることを腐す奴が一人もいないのだ。

一方で、講師陣のドラマでは演劇界に身を置くことのシビアな側面も描かれている。当然、なりたい役を掴めるわけではないし、ある程度は人生の犠牲を強いられることになる。しかしそもそも舞台は彼らにとって「居場所」なのである。その意味では大人も子どもも対等に扱われている。

ただ、物語の立て付け自体は「経営破綻寸前のスクールを立て直すために3週間で新作ミュージカルを発表できるのか?」というタイムリミット形式のキャッチーなものなのに、あまりそこメインでは描かれないので、作りとしては正直なんだかフワッとしている。せっかく演劇門外漢の“事業開発専門家”を置いているのだから、彼が子どもたちと交流するなかで演劇という「居場所」の価値に触れ……みたいなドラマを描けばいいのに、そこも薄味。というか子どもたちに関してはほぼ個人ごとの深掘りはされず、むしろドラマは大人たちメインなので何だかなぁという感じもする。

ただ、クライマックスのミュージカル自体は問答無用で素晴らしいのだ。それはドラマの積み重ねの結果というより、いきなりこれを食らえとねじ伏せる感じになっていて、それこそ本作の即興性を反映した作りなのだろう。もっと演劇が出来上がっていく過程を見たかったなと思いつつ、しかしこれはこれで不揃いのままであることを肯定する自由さがあると思う。経歴詐称のあの人が最終的にあの子と共鳴する展開とかワケ分からんし。そういう奔放さはある意味好ましかった。
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