netfilms

コヴェナント/約束の救出のnetfilmsのレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
4.0
 2018年、アフガニスタン。米軍のジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)は、タリバンの武器や爆弾の隠し場所を捜索する部隊を率いていたが、その作業には終わりが見えない。ジェイク・ギレンホールのすっかりうんざりした表情が印象的な今作は、正にキャスリン・ビグローの『ゼロ・ダーク・サーティ』の世界線の裏側とも呼ぶべき物語である。言葉がわからないと話が進まない為、ジョンは何人ものアフガン人通訳を雇うが、そのリクルーティング作業には部隊の存続が掛かっていると言っていい。そこでジョンによりアフガン人通訳として雇われたのは、気性の荒いアーメッド(ダール・サリム)という男で、上官の言葉には楯突くし、明らかな不穏分子なのだが、ジョン・キンリーの野生の感が彼を選ばせたのだ。通訳には報酬として、アメリカへの移住ビザが約束されていた。身重の妻を持つアーメッドにとっては、売国奴と呼ばれようがアメリカへの脱出だけが唯一の希望だった。前半部分のタリバンへの侵攻まではガイ・リッチーにしては珍しいほどの丁寧で職人的な描き方で、迫力もあり見応えがあった。

 そもそもガイ・リッチーという人はどんなジャンル映画でも器用にこなす才能があり、決定的にアクションが撮れる監督なのだと改めて感心する。タリバンから身を隠すような2人の逃亡の旅の緊迫感も十分で、カメラの向きを常に少しずつ変えながら、岩山のゴツゴツとしたテクスチャーまで器用に繋いで行く。然しながらガイ・リッチーの真の本領発揮は70分過ぎてからである。瀕死のジョン・キンリー曹長は祖国に英雄として崇められ、勲章も交付されるほどだがジョンの気持ちは一向に晴れない。Day1、Day2と日めくりカレンダーの如く悪夢のような工程が進行して行く様の悪魔的なモンタージュこそはガイ・リッチーの真骨頂だ。ジョンを何10kmも運んだアーメッドに米国政府はどういうわけかビザを発行せず、一瞬でタリバンの指名手配に遭うアーメッド家族の心労は計り知れない。戦争で生き永らえながらも彼らはアメリカ政府の欺瞞に殺されたのだ。ガイ・リッチーは異なる場所に居るはずの2人を突然正面切って華麗に映して見せる。そこには苦み走った大人の男の顔があり、すぐにアクションが起動する。並外れた美談は然しながらその陰に残酷な現実を突き付ける。これは部外者ならではの視点に違いない。米軍に雇われた5万人のアフガン人通訳には、アメリカ政府からアメリカへの移住ビザが交付されると約束されていた。然しながら2021年に完全撤退した今では、約束を反故にされた300人以上の通訳が殺害され、今も1000人以上の人々がアーメッドのように身を隠して暮らしているという。
netfilms

netfilms