メッチ

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間のメッチのレビュー・感想・評価

4.6
都合の悪いものほど目を背けたくなる。それが加害側でも被害側でも。そして、傍観側でも。

本作は、ロシア軍とウクライナ軍の攻防戦となった工業都市マリウポリが、開戦から陥落されるまでを記録したドキュメント。実際に起こったことを映画としてまとめているため、終始息がつまるような場面が多かった印象です。
ショッキングなことが立て続けに起こるうえに、それが偽りではなく現実に起こった事実のため、終始目を背けたくなります。当時、報道で流れていた映像がスクリーンにて鮮明に映し出されますが、精神的苦痛を食らいます。報道の時と比じゃないんですよね、スクリーンで映し出される方がより一層と、感じてしまいますね…。

なによりショックだったのは、マウリポリ都内で同じウクライナ人同士での問題ごとで、避難して主人がいなくなったお店へ他のウクライナ人が窃盗に入られるところ。助け合うことよりも問題を起こすことを選ぶというのは、戦争とは人の本性が出るものだからなのでしょう。それだけ、他人が助かることよりも、自分が助かることを優先したくなるのでしょう。

また、作中に報道でも報じられていた産婦人科の病棟をロシア軍の空爆によって攻撃を受けたことについて触れていましたが、ロシア側はこの映像をフェイクだと主張していました。報道でも本作でも、ロシア側は何の根拠もなく、また「攻撃命令をしていなから攻撃していない」という子供の言い訳のような主張。これでは信憑性がないように感じます。
行っていることは非人道的でも、ロシア側の正義のための行いなのでしょう。けれどもその意思は下役へ行き届いていることなのでしょうか?あくまで私の憶測になりますが、その意思は行き届いていないばかりに、暴走する下役のコントロールができていないだけのように感じました。上役が民間への攻撃の命令をしなくても、現場にいて命令を聞く下役がいい加減であれば攻撃をしなくていいところへの攻撃をするでしょう。
どちらにせよ、事実は起こったことでしょうし、時間が経ってから真実が分かるでしょう。

最後に、監督もアカデミー賞の会場でも仰っていましたが、戦争という事実を記録したことで賞を受け取っていましたが、平和であれば命懸けで作品も作らなくて済んだし、賞は受け取っていなかった。そのような監督の発言からは、何かを引き換えに世の中は回っているという残酷さが伝わりました。
ただ、このような作品を世に出すことによって、私のように遠く離れた国に住んでいる人にも戦場の悲惨さが伝わりましたし、偽りと真実を知るきっかけを与えてくれたことに意味があった思います。
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