ドント

ビヨンド・ユートピア 脱北のドントのレビュー・感想・評価

3.5
 2023年。これは大変な作でした。時期はコロナ直前、10年間で1000人を越える人間の北朝鮮脱出を手助けした韓国人牧師と、彼の手引きで「脱北」しようとする青年の母/いち家族を撮るドキュメンタリー。
 北朝鮮の生活事情とかマスゲームなんかは夕方のニュースとかでちょいちょい流されている(今もやってる?)のである程度は把握していたが、改めて整えて並べて見せられるとシャレになんねぇなという気持ちが強くなる。アメリカ人の制作という点を加味しようとも、人の住むお国として全然よくないのである。
 亡命にしてもブローカー(作中表現ママ)が噛んでお金を介したビジネスのやりとりになるあたりがまたおっかなく、お金を払っても上手く逃げられるかどうかわからないあたりがさらに怖い。なんせ2019年時点でも国境を越えて危険な中国を横切り危ういベトナムと危ないラオスを通ってタイまで到達してはじめて無事になるってんだから大変である。言われてみれば、な逃避行だけどこれを映像で直に観るとやはり説得力と怖さが違う。
 さらにベトナムやラオスの風景、暮らしぶりの「豊かさ」に困惑する北の人々の様子にも胸が詰まる。家族が逃げるので80歳で脱北したおばあさんの「北朝鮮がもっとよくなれば、ここに似た暮らしになるはずでしょう? 総書記様は頑張っておられるのだから、私たち国民の努力が足りないの?」という呟きはとても怖くて深く哀しく、強く印象に残る。
 一方でスパスパパシパシと小気味良い編集や効果的にすぎるBGM、わかりやすい構成によって、映像作品として「よく出来すぎている」きらいもあり、そりゃまぁよく出来ているに越したことはないのだけど、ドキュメンタリーというのはもう少し呑み込みにくいものであってもよいのではなかろうか、と感じたりもした。ともあれ北朝鮮と脱北者についてギューッと濃縮された強い一本であることは間違いないので、地上波とか学校とかで流すとよいと思う。
ドント

ドント