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妖怪の孫のohassyのレビュー・感想・評価

妖怪の孫(2023年製作の映画)
3.5
元首相・菅義偉を描いたドキュメンタリー「パンケーキを毒味する」に続いて、友人がアニメ監督として参加していることもあり鑑賞。
「パンケーキ」は、答弁などを見てもどうにも要領を得ず、一体どんな人なのかよく分からない印象が強かった菅義偉という人物の本質を垣間見るという意味で、非常に興味深い作品だったのだけれど、本作は妖怪の孫こと安倍晋三を通して、日本政治の歴史と、そこから脈々と続く現在の状況を何とかこじ開け、政治や行政を他人事として関心を示さない、僕のような国民に知らせようとする、ジャーナリズムの塊のような作品であった。

例えば本作で描かれたことが概ね事実だとして、僕らは一部の人々に比べて不平等に扱われ、さまざまな形で搾取され続けているということになるのだけれど、どうしてそういうことが起こるのかは、社会人としてそれなりの年月仕事をしていると何となくわかるようになる。
それは、本作で登場する3つのアニメのテーマとされている「不寛容」「自己責任」「過度な自己防衛」、加えて、検討の上で採用を諦めたと監督もおっしゃっていた「忖度」あたりが元になっていて、ビジネス活動や経済活動、つまりお金が、あらゆる人の人生の圧倒的なトップクオリティになっているからに違いないと思う。

本編でメディアや財界が政権の目を気にするように、我々はクライアントの目を気にし、上司の目を気にする。
自分の考えが正しいと思っていても否定されると自分の意思を引っ込めるのは、現在の自分の立場を守るという意識が生んだ行動だ。
もっと本質的で先を見据えた正しい考えだったはずなのに、目の前の、自分の処遇を変える力を持っている人の都合で拒否されると、正しいと思っている行動が自分にとって不利に働いてしまう事になる。
だから、仕方ないと自分に言い訳をしながら言葉を飲み込み、間違った方向に仕方なく進む。

つまりはクライアントや会社、上司の奴隷などではなくて、お金の奴隷ということだけれど、これが典型的な忖度の仕組みであり、ここで蓄積されたとてつもないストレスや猜疑心、怒りなどが自分の心を硬直させ、不寛容になり、他人の不幸を自己責任と一蹴し、過度な自己防衛による加害へと陥ることになる。

監督のお話で、新宿ピカデリーで上映が決まったが、本来掲載すべき靖国通り沿いには、ポスターを貼ることを断念したそうだ。
その話を聞いた僕も「確かに貼りにくいよなあ」とつい思ってしまったけれど、これこそが忖度であり、深く染み付いているもんだと改めて感じることになった。
安倍晋三お膝元の山口でも、今のところ上映館は無いという。
かければそれなりに入りそうだが、忖度や怖さがそれをさせない。

あの事件は痛ましいものだが、事件後、オリンピック関連の不正による大物の逮捕が相次いでいるのを見ると、あながち影響力が無かったとも言えないんだろうなと思っていたところでもある。

ただ、実のところ人間関係にはあまり上下ってなくて、大体は雇用される側が自分の中で上下を作ってしまっているだけ。
人はお金をもらっているとはいえその分の働きはしているわけで、お金を払う側も、その人にお金を払って働いてもらうことでさらにお金を儲けようとしているので、働いてもらえないと困るわけである。
だから、ちゃんと働いている限りそんなに怖がる必要なんてないのだし、お金は欲しいけど無くてもまあ死ぬこたーない。

監督自身も身の危険を感じながらカウンターを放つ骨太な内容で刺激的だし、アニメの中で背中を丸めてとぼとぼ歩くおじさんが、アニメを監督したべんぴねこ @benpineko そっくりなので是非見てください。
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