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ブラックベリーのhasisiのレビュー・感想・評価

ブラックベリー(2023年製作の映画)
3.7
1996年。カナダ、オンタリオ州の都市、ウォータールー。
マイクとダグは、北米初のワイヤレスデーターの技術開発を行う会社、リサーチ・イン・モーション(RIM)の共同創設者。
Eメールと携帯電話を融合した、現在のスマートフォンの先駆け「ポケットリンク」を開発。
ビジネスマンとして成功し、契約や販売を熟知したジムを会社に向かえ、世界に打って出ることに。
のちに携帯市場を席捲するほどにシェアを拡大する「BlackBerry」の前身である。

監督は、マット・ジョンソン。
脚本は監督と、マシュー・ミラー。
2023年に公開された伝記ドラメディ映画です。

【主な登場人物】🏢🍁
[カール・ヤンコウスキー]PalmのCEO。
[ゲイリー・ベットマン]NHLの重役。
[ジム・バルシリー]CEO。
[ダグ・フレギン]相方。
[チャールズ・パーディ]COO。
[マイク・ラザリディス]主人公。

【感想】🖥️🖱️
ジョンソン監督は、1985年生まれ。カナダ出身の男性。
2007年から低予算映画をつくりはじめて今回で3作目。
モキュメンタリーや、ファウンド・フッテージが専門なので、伝記とも相性がいい。
出演もこなす人で、今回も主人公の相方であるダグ役で登場している。

脚本のミラーはジョンソン監督の相方で、主に制作を担当している。

原作は、ジャッキー・マクニッシュとショーン・シルコフによって書かれ、2015年に発行された、
『Losing the Signal: The Untold Story Behind the Extraordinary Rise and Spectacular Fall of BlackBerry』

📱〈序盤 試作機〉📶📽️
会社でまともなのは大人しい主人公のマイクだけという、裸の王様形式。
ジムは未来の携帯電話である、スマホの意味が理解できていないが、金儲けはしたい切れキャラ。
社員はみんなオンラインゲームに夢中な幼稚園状態。

……なんだけど、監督は相棒のダグ役で、顔芸担当。通常『オットーという男』や『ユリア先生の赤い糸』のように、王様役でちやほやされたい人が作る形式だが、従者の1人に扮するという斬新なスタイル。

超高評価映画なので、どれだけ凄いのかと思えば、ホワイトカラーの職場で空気が凍りつくような寒いボケを延々と見せられて時間だけが過ぎてゆく。

わたしが自分用のパソコンを使い始めた頃。ドンピシャの世代なのだが、当時の流行も「ふ~ん」程度。レトロフリークすぎて、もはや懐かしさも日常に。

📱〈中盤 成長〉📳🏒
見ていると馬鹿すぎて可哀想になるが、
劇場版『ドラえもん』の、のび太君のように、突然頭がよくなるギャップ仕様。
スリリングなのに実話なので説得力も有る。今では誰もが知っている技術の話なので、理解もしやすい。

『AIR/エア』だとプレゼンで認めてもらうのがピークだが、本作だとサクセスストーリー。会社の規模が拡大する過程が味わえる。
社員の心は何も変わらないのに、景色が変わる見せ方がお洒落。

微かに記憶に残っている携帯の機種や、当時のニュースが懐かしい。
携帯の通信が大容量化してゆく裏側が知れて、かつコメディなので楽しく学べる。
ドタバタの規模も拡大するが、通信は生活と密着しているので親しみやすくて笑えた。

時代の移り変わり。
1時間かけてボケつづけることで、会社経営がいかにつまらなく変化したのか、を描いてある。
技巧が重視され、緩さが消失していく過程。音楽や笑いにも通じるものがあって、深い。
生存競争の中で、息のつまるようなものが時代を席巻し、何が楽しかったのかすら忘れてしまう。
人として魅力的、が最重要なのに。過酷な時代だった。

📱〈終盤 黒船来航〉📴👲🏻
「BlackBerryとか聞いたことないし」
時代に押し潰される感じがたまらない。
失われてしまった古きよき技術のもたらすノスタルジーといったらない。
“お洒落”と生産性が優先され、電化製品が使いにくくなってゆく過程を肌で味わっている世代であれば、心にくるものがあるだろう。

珍しくクライマックスの演説も物悲しい。
時代の変化に対応したものだけが生き残るのが自然界の掟。
叫びの空しさをあるがまま。
理想や欲望は時に人を滅ぼす。
生き残りをかけたゼロサムゲーム。
勝者の成功秘話もいいが、たまには戦って消えていった男たちの有志も悪くない。

【映画を振り返って】👔👕
最近だと、映画館の移り変わりを描いた『エンドロールのつづき』に通じるものがある。
GAFAMが支配する今の時代とは違い、プラットフォームにも夢があった。
いまだと、スタートアップで似たようなものが描けるだろうが、会社を売る、が選択肢の1つにあると、感情移入度は下がるだろう。

🤬切れ芸。
ボケるか、仕事の壁にぶち当たって滞るか。
ツッコミのストレスが限界値を越えて爆発。周りが静まりかえる。これが延々とつづく。
責め専門かと思えば、伝記の内容は滅びに向かうもの。
受け責め両方できて流動的な監督。全体的にハイブリットでカチッとしていない。水の構え。

⌨️インタラクティブ。
PalmのCEOであるヤンコウスキーは、プレイステーションを世に広めた人。
なので、ゲーム業界と重なる部分も多い。
監督がレトロゲーマーなので、散りばめられたゲーム画面も楽しげ。
わたしは0年代のゲーム機戦争を体験したので、その少し後で加熱した携帯戦争は胸にくるものがあった。
(セガだとブラックすぎて映画化できないだろうけど)
……いま振り返れば、ゲームメーカーの戦略もぶっ飛んでいたし、この時代は普通に描くだけでコメディなのかもしれない。

大学のサークルのノリから、時代の覇者にまで行きかけた夢の扉まで体験できるお仕事映画。
BlackBerryと似たようなデバイスは、ガラケーとして今も愛好されているわけで。
市場は崩壊したものの、マイクに賛同する思想はいまでも息づいている。

わたしもタッチスクリーンが苦手な古い人間なので、物理キーの手触りにこだわるマイクの気持ちは理解できる。ただ、パソコンやゲーム機があるので「携帯までに求めなくてもいいかな」と思うくらいには現代に馴染んでもいる。
懐かしさと同時に、ボタンの切り替えが瞬時にできて、大きく表示できる仮想キーの偉大さを痛感する映画でもあった。

ちなみに鑑賞後は、この世の終わりのような気分にさせられるが、携帯市場から撤退した後は会社の規模を縮小して方針転換。サイバーセキュリティーの会社として生き残っている。
玉砕覚悟で戦いつづけるのもいいが、培った技術を活かして別の道を模索するのも1つの選択肢ではある。
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