ダムの放流みたいな映画(褒めてます)。
やっとこれだけテーマをたくさんモリモリに盛り込んで、しかも混乱もしないで、
しかも映像素晴らしく、
しかも音楽素晴らしく、
しかもお芝居素晴らしく、
「死ぬのかな」っていう奇跡的な名場面もあって、
しかもちょっとイジってる(区役所のシーンとか)映画爆誕!
やっとだぜ、マジで。
グングン進みつつ、そのスピードに振り落とされたモノ・ヒトをも掬って描いて撮って残してって欲しいです。
よろしくお願いいたします。
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LGBTという言葉もなかった時代に生まれ育って
ホモだオカマだと笑われ、日陰者として生きることが王道だった当事者たちの中には
「何故自分はこんなにバカにされ我慢して隠れていなきゃいけないのか」という疑問に対して
「間違った存在なんだから仕方ない」と答えを決めて諦めながら生きることを選んだ人は多かったんだと思います。
そういうもんだとみんなが思っていた時代だっただろうし「は?ふざけんな!権利を!」と戦える人は今よりももっっっと少なかったことでしょう。
また、自分が我慢したり諦めたり二重生活を送ってきた当事者が他人や下の世代にもそれを強いてしまうっていうのも、
想像に難くない。
そうやって生きるしかなかったかどうかはわからないけどそうやって生きてきた多くの人が今は年老いていて、
同性婚が認められる国が増え、国内でも同性パートナーシップ制度を施行する自治体が増え、アライ(ALLY)の人たちも増えて大きく変化した世の中で、
全然ついていけず振り落とされてしまう当事者にも、この映画は優しい。
(長々と失礼しました。。↑この一文が言いたかった!)
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世の中をどんどん進化させて、生きづらさを感じる人が減ることはもちろん大事だけど
そこから振り落とされてしまう人たちを単純に「恐竜」だの「時代遅れ」だのとそれこそ嘲笑しちゃうのもちょっと違うような気がしていて。
政治やアクティビズムの舞台ではそれくらいの勢いがものを言う場面もあるとは思うので否定はしないけど、
映画はもっと温かく優しいものであって欲しいと思う。
映画には、「権利権利うるせーなぁ」って言っちゃうゲイ当事者にさえ優しく手を差し伸べるものもあって欲しいなと思う。
この『老ナルキソス』にはその優しさ、温かさがあると思う。
(長々失礼しました。。↑この一文が言いたかった!)
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80年代には日本にもHIV/AIDSの脅威が襲っていて
風評被害による激烈な差別行為を一般からもマスコミから受ける中で
友達がHIVで亡くなっていくし
HIVで亡くなったということも言えない時代だった。
そういうことがあったということをスルーせずに、
この映画では掬い上げいている。
時代の流れに振り落とされたり、忘れられて、なかったことにされそうなコトをちゃんと拾い上げていた。
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芝居がいい。
こういう映画の美男子役ってとにかくルックスだけ良くて(しかもルックスも?って場合もあるし…)芝居が大根すぎるってケースが多かったように思いますが、否っ!
水石亜飛夢がまだ若いんですけど、舞台やら映画やらドラマやらとんでもない量出ていて、、すごい奥行きのある人物像になっていました。
水石亜飛夢の功績が一番大きいと思う。
主演の田村泰二郎は、唐十郎の状況劇場出身の方で舞踏もやられている色々別格の存在感を持った方。
主役としての存在感がすごい。荒れ狂うように展開していくこの映画の真ん中で、日本のどこかに実際にいるであろう誰かとして存在していたのがすごかった。。
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井関真人のシャンソンが劇中とエンドロールで流れるんですけど、、その本物感に圧倒されました。。
シャンソンについては全然知らないしどう楽しむものなのかもわからないんですけど、歌を聴いているだけなのに(?)劇中劇を見ているかのように歌の中の物語がグワ〜ッと始まってしまう。
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映像も良かった。
挿入される実景も素晴らしく美しくて語りかけてくるものがあった。
どの要素も良かったし、それでいてつまんない映画になっていない、独特の独特の歪さもある映画で、ほんとに楽しかった。