塔の上のカバンツェル

終わらない週末の塔の上のカバンツェルのネタバレレビュー・内容・結末

終わらない週末(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

最高傑作ドラマ、「Mr.ロボット」のサム・エスメイル監督作品〜☺︎

出オチみたいな結末だけど、そこに至るまで一体何が起こってるんだ?と、ジリジリと興味が持続するのは流石はエスメイル印。

予告編からは超常現象的なSFミステリーを予想するけど、実際はアメリカ本土決戦モノっていう。
そこに終末の密室サスペンスが展開される。見知らぬ他人と世界の終わりを迎えるの勘弁してくれイズム。
ディザスターものにジャンル分けもできる。

途中まではコレは隕石的なヤツやな、ってミスリードさせる創りなので、最終的に一応は敵国からの電子攻撃からの、インフラ破壊、そして内戦へ…という筋書きは見えてくるけど、実際の真相はそこまで明らかにされないし、キャラクターや観客には起こっている事実のみ映して、実体は掴ませないように常に藪の中へ誘う。

スッキリする作風ではないので、つまんなかったっていう人も結構いるのはそりゃそうだとも。
ただ、自分的に核戦争や米国の国家存亡に関する緊急事態に発せられる"エマージェンシー・ブロードキャスト・アラート"がフェチなので、困難の最中にある市井の人々のサスペンスはドツボだった。

「若き勇者たち」とか「ブッシュウイック」みたいな本土決戦モノにもジャンルとしては向いてると。


事実をアヤフヤにしているので、今作を持って"リアル"と言う表現を使うのはちょい違うかなとは思う。
言っちゃえば、陰謀論的テイストに片足を敢えて突っ込んでいる作品なので、真面目に論じるより、危機を楽しむ作品なのはそうなんじゃなかろか。

とは言え作劇的には、現代のアメリカ内政を風刺している作品では勿論あり。

恒常的にサイバー攻撃を受けているご時世、特にアメリカへのインフラ攻撃は2021年の西海岸のパイプラインの制御システムがロシアのハッカーに攻撃された事件とか思い起こされると思うし、
ロシアによる2016年の大統領選への介入事件とかはかなりその実態の研究成果も発表されつつあるわけで。

脳死で"工作"とか言っちゃう言論にはめちゃめちゃ注意が必要と思うのと、
一方でソ連時代から脈々と続く、西側世論に対するアクティブメジャーズ(積極工作)の手法やハイブリッド戦争論などのロシアの軍事思想として発展させてきた歴史と現在の情勢も含めて、
"私たちの社会は脆弱なのでは?"
という時流の安全保障問題を可視化したのが、エンタメとしての本作の面白さだと思います。
"陰謀"を奇妙な面白さで描くのが、監督の持ち味でもありますし。

まぁ陰謀論的世界観を本当に信じちゃう層を一定数再生産しちゃった責任の一端はハリウッドにもあるとは思うし、
最近は義務教育の敗北ぅ…ってガッカリすることも多々あるションボリ時代なので、劇中の人種間対立とか党派的な衝突とか、アメリカ人的には非常にタイムリーな映画ではないでしょうかね。

ただ、いくらサイバー空間における自立性をロシアやイランも研究して育ててきたとはいえ、全てのインフラを米国基盤から切り離せたとも思わないので、米国の安全保障トップが今作みたいにスタコラ逃げるみたいなことになるのはエンタメ的なファンタジーかなぁ。
内戦一直線になる辺は日本原作の「虐殺器官」的な面白さがあるなぁとも。
実際は察知した段階で硬軟織り交ぜて反撃しそう。
もう少し"リアル"に寄せるなら、それこそサイバー中華圏の構築がかなりの規模成功している中国を描写せんといかんでしょうなぁ。


ロシアによる世論工作の手法を体系的に学ぶなら取り敢えず中公新書の「諜報国家ロシア」を読むとよろしいかなぁ。学術的な研究成果として出版されてものからまずは入るべし。
もしくは、ケビンベーコンよろしく田舎に引っ越して20mmゲージのショットガンを片手に地下室に篭るのが良いんじゃないでしょうか。


サムエスメイル監督作品で、同じくジュリアンロバーツとタッグを組んでるAmazonプライムの「ホームカミング」も見始めてるけど、本作と作風的には連続してるので本作ハマった人にはオススメできそうだなぁ。
フラミンゴも意味ありげに出てくるし。

今後ともエスメイル監督の迷宮に誘う語り口に翻弄されたい。
応援したい作家さん!