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世界の終わりからのohassyのレビュー・感想・評価

世界の終わりから(2023年製作の映画)
3.5
紀里谷監督といえば「CASSHERN」とその酷評がすっかり定番だけれど、個人的には世間が言うほど悪くないと思っていて、ルックの作り込みなどは国内では頭抜けているし、セリフや役者の使い方を見るにアニメやればいいのにとずっと思っている。
彼はきっと役者やその演技をあまり信用していなくて、人そのものより作りたい世界に興味がある人だから、アニメはかなりハマるんじゃないだろうか。

本作もこれまで同様、現実味のないキャラクターたちが創造された世界を守るために現実味のない会話を繰り広げる。
ヒロインのハナを演じる伊東蒼を除いて。
彼女の存在は、ほとんどこの作品の全てと言っていい。
演技云々とはまた違うのだけれど、なんというか、彼女が居ることで本作が存在できていると言えばいいだろうか。
顔、佇まい、それらは演技ではあるけれど、上手いななどとは少しも思わせず、作り物の世界に唯一生きているハナが、そこにいる。

ポスタービジュアルにもある、正面を見据えたバストショットが随所に登場する。
嘘や都合や欺瞞や利己に満ちた社会=僕たちを見据える生身の少女の視線が、シーンごとに見るものに問いかける。
大袈裟でなく、本作最大の見どころだ。
それを見るためだけに劇場に足を運んでも良いと思えるほどの見応えであった。

「世界を救う」という大きな設定ではあるけれど、救うための物理的な行動を描くのではなく、1人の少女としてできる範囲の意思や優しさ、思いやりの先に終末を回避できる可能性があると描かれる表現は非常に文学的であり、村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」にも通じる。
タイトルも似ているし、もしかしたら影響を受けているかもしれない。

本作は監督初のオリジナル作品で、本人曰く最後の映画だという。
確かに、これまでのフィルモグラフィーとは比べ物にならないほど魂の乗った、作家としての想いが伝わってくる作品だった。
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