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風の谷のナウシカのRyuのレビュー・感想・評価

風の谷のナウシカ(1984年製作の映画)
4.0
『君たちはどう生きるか』公開に備えて宮崎駿の作品を見直しているシリーズ。

あらゆる作家がそうであるように、処女作には後の作品にも描くことが宿命付けられているありとあらゆる要素が詰まっている。
宮崎駿の場合も例外ではなく、彼の監督処女作は正確に言えば『ルパン三世 カリオストロの城』だが、オリジナル脚本である『風の谷のナウシカ』の方がその作家性を色濃く反映している。
改めて言うまでもないことだろうが、自然と科学文明のあり方を常に作品の中で問いながら、アニメーターとしてその矛盾の中にいる作家というのが宮崎駿の作家性の重要な割合を占めている。
そして彼の作品は地下に封じ込められた神秘と、大空への夢に満ちている。それらはほとんど20世紀まで人類が抱いてきたものであり、同時に生まれてきた子供が原初的に眼差される対象であるからこそ、彼の作品は普遍的に世界に受け入れられているのだろう。そして地上で戦争を繰り広げていく人間の業もこの作品の中では描かれていて、それらは『もののけ姫』や『風立ちぬ』といった作品としても派生していく。

また、岡田斗司夫も指摘していることではあるが、宮崎駿作品において本作のように結末部分でテーマに対して根本の解決がほとんどなされないような形がとられることがある。一旦その場での戦いや諍いは収まってはいて、主人公達は生き延びることはできたけれども、その先の世界をどう生き抜くかということ自体は何も示されていない。
興味深いのはこの結末の特徴が子供と大人にとって受け入れられ方がやや異なるということだ。自分が幼少期に感じたジブリ映画の終わり方の印象というのは、主要な人物達が何かしらの問題が起きた後に生き残ることそれ自体のハッピーエンド、そしてほんの少しの違和感である。その幼少期に感じていた違和感は大人になるにつれて、作品内外のもっと大きな核の問題が何も解決してなくて、どうすれば良いのか模索し続けている作家自身の姿もその背後に垣間見たことで、回収されたような気がする。宮崎駿にとって大人は生きていること自体が財産である子供とは違って、ありとあらゆる問題を見据えながら生きていく責任というものがあると考えているのかもしれない。

『風の谷のナウシカ』は映画としては今見直すとやや作画が古く感じてしまう瞬間があるが、それでも動きとしてハッとさせられる部分は多い。特に人物に思い切り寄る場面、ナウシカが飛行する際の重力の感覚、空中戦の中での活劇としての展開の作り方にやはり天才性を感じざるを得ない。また、王蟲の造形の気色悪さや巨神兵の禍々しさも子供にトラウマを残すには充分すぎるほどのものだろう。幼少期に本作に対して苦手意識があった理由がよく分かった。音楽のラン♪ランララ♪ランランラン♪も含めて怖すぎる。
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