デッカード

君たちはどう生きるかのデッカードのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

実は自分はジブリ映画をあまり観たことがない。
宮崎駿作品ならば、『ルパン三世 カリオストロの城 』、『風の谷のナウシカ』、ジブリ映画の『天空の城ラピュタ』はフェイバリットなのだが、『となりのトトロ』以降は観たり観なかったり。
なので、宮崎駿&ジブリファンの皆さん、もしかして変なことを書いていても「素人のたわごと」と許してね。

そんな宮崎駿作品の『君たちはどう生きるか』だが、ゴールデングローブ賞受賞という話題性で鑑賞した。

まず思ったのは「難解」。
これはいい意味で説明的なセリフや描写をいっさい排除した結果で、登場人物が不自然に長々と説明的なセリフをしゃべる映画がある中、極端すぎるほど潔く省略している。
それゆえなのだが、主人公の眞人が遭遇していく数々の世界や登場人物は完全に観る側の主体的理解力に委ねられることになる。

私はこの映画を、戦争で母を失った少年が、母への思いのあまり受け入れることのできなかった新しい母や現実を冒険をとおして大人になり受け入れる成長譚のように思ったのだが、当たっているだろうか?

下の世界に行ってから眞人が見る次々に展開していく世界や登場する人物が意味するものがわからず付いていけなくて混乱したが、キリコがおばあさんの若い時の姿は着ているものでわかったし、ヒミが母なのは早い段階でわかった。

ただ下の世界を統治している大伯父が宙空の石を見ながら何のバランスを取っているのか、インコが何の象徴なのかは結局解読できなかった。

太平洋戦争の空襲から始まる物語なので何かしら戦争に絡む物語なのか?とも思ったが、あまり戦争との関連性は具体的には語られることはなく、母との別れを受け入れる少年の成長に焦点が絞られていたように思う。
しかし他のアニメ作品に比べると難解なのは事実で、高評価をしている人が多いことを考えるとだんだん「自分が馬鹿なのか?」と不安にもなってきた。
特にラスト何か示唆めいた展開があるのかと思っていたらブツリと切られるような終わり方で、正直言うと宮崎駿に突き放された気分になってしまった。
弟もでき家族や現実世界を受け入れた眞人の姿だけで十分彼の成長が表現できたということなのかもしれないが、どうしても感じてしまう唐突さには戸惑いを感じた。

もう一つ、『君たちはどう生きるのか』というタイトルの持つメッセージ性をはっきりと汲み取ることができず、その意図する描写はどこにあったのか何度も反芻したが理解には至っていない。
母が眞人に残した本のタイトルをそのまま映画の題名にしたとの考察も読んだが、本を読んでいれば容易に理解できたのかもしれないのだが、どうしてもそれだけとは思えない気配に今も気持ちは翻弄されている。

アニメーションとしては美しく、ジブリらしい躍動感が多様されていることはわかったのだが、やはり内容とメッセージに十分な理解が及ぶことはなく消化不良か?
逆にゴールデングローブが何によって賞を授与したのか知りたくもなったのだが、そのあたりはいろいろな人の考察を読ませていただく楽しみと割り切っていいかと思っている。

個人的には、上の世界の命となるワラワラを食べないと生きていけないペリカンが、生き物としての業を一身に引き受け表現されていることには注目。
戦争で人を殺さなくてはいけない上の世界の人間に重なるところを感じて哀れで、眞人がペリカンを丁重に埋葬した気持ちを自分なりに消化できた気持ちにはなれた。
ただ、自分の何でも戦争につなげようとする解釈は間違っているのかもしれない。

それとこの作品で描かれる唯一の大人の男性である父・勝一に対する作り手の何かしらの嫌悪感を感じてしまったのは私だけだろうか?
他のキャラクターにはどんな立場でもファンタジックな愛らしさやそれなりの主張があるのに、父だけは戦争が行われている現実世界にいて傲慢なのは気になった。
父は軍需工場で戦闘機の防空窓キャノピーを作ることで成金になっていることがはっきりと描写されているのだが、それがわかるタイミングが時期的に神風特攻隊が始まった時期に重なっているように思え、そんな父に対する作り手の嫌悪感だけはかなりわかりやすく明らかなかたちで表現されていることには、抽象的と言っていい作品全編の中では少なからずアンバランスで違和感を感じた。

全編説明を排除した映画ゆえ抽象的で最終的に簡単に主題を理解できないという感想にならざるを得なかったのだが、映画として、ここまで観る側の主観にすべてを委ねてしまう作品をよしとするか、否と見るか、そこは作り手の姿勢として賛否が分かれるところかもしれない。
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