リミナ

君たちはどう生きるかのリミナのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

2013年『風立ちぬ』以来の宮崎駿監督作品。
作品単体、もしくは制作者の姿と重ね合わせて観るかで評価が変わってくるだろう。

本作は公開まで物語や登場人物、キャストについて、ほぼ一切の情報が明かされないことでも話題を呼んだ。
"スタジオジブリ"や"宮崎駿監督"というこれまで積み上げてきたネームバリューがあるからこそ成せる特異な宣伝。
事前情報がないからこそ、観客に劇場で驚きを与え、想像力を掻き立てられる。

物語は戦時中のシーンから始まり、ドキュメンタリー的な現実に近しい内容なのか?と思わされる。
だが、アオサギが人間の言葉を発してからは一転、ファンタジー要素が介入してくる展開。
独特なキャラクターデザインや舞台設定は紛れもなくジブリらしさを感じる一方で、
全体的に描写はどこか淡々としており、ここがまさに盛り上がりどころというエンターテインメント性は欠けていた印象を受けた。
眞人が探していた母との再会、世界の選択・決別もどこかあっさりしている。
本作には明確な敵の存在や主人公とヒロインの恋愛模様といった要素がないのもあるか。
そんな中、勇敢というよりはどこか狡猾で危なげない眞人は、これまでのジブリ作品にはない主人公像で意外性があり面白かった。

映像面は流石ジブリというか、まさしく劇場作品を観ている感覚を味わえる。
それは冒頭の階段を昇り降りする眞人のドタバタした作画からも感じられる。
特に見所となるのは戦時中の火災・群衆のシーン。大平晋也氏が手掛けていると思われるが、ジブリ作品でここまで作り手の個性が前面に出ているのも珍しいのでは。モブの描き方から特徴的。
中盤、大量の紙が飛び交い眞人に纏わりつくシーンも目が離せない。デジタルではなくアナログなら尚更その労力は計り知れない。
全体的を通して芝居作画が巧いのはもちろん、鳥の大群など単純な物量に加えて、地面の材質や段差による車や足の動きの違いといったひと手間が必要なものもわざわざ描き切っている。その積み重ねが画に説得力を生む。
それでいて作画監督が本田雄氏1人のみで原画も20数人という少数精鋭の制作体制。制作期間の違いはあれど、下手すると昨今のTVアニメ1話分より人数が少ないのは驚かされる。
また、そのクレジットにはこれまでジブリ作品を支えてきたベテラン・レジェンド級の方々が並ぶ。そんな並びの中で亀田祥倫氏の名前があるのは新鮮だった。

本作には抽象的な描写が多いが故に観客側に想像の余地がある。そのときに過去作と結びつけるのか、制作者の生き様と捉えるのか、どう解釈していくのか委ねられている。観客なりに納得することで本作が完成するのかもしれない。

宮崎駿監督も82歳という高齢。
もしかしたら、劇中の積み木のように崩れる寸前、限界を迎えていたのかもしれない。
それでも何とか創り上げて世の中に出された本作。
空想の世界から現実に戻った自分たちは果たしてどう生きるのか。
リミナ

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