デッカード

コカイン・ベアのデッカードのネタバレレビュー・内容・結末

コカイン・ベア(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

麻薬密売人が飛行機からばら撒いた大量のコカイン。
山中に散らばったコカインを拾ったのは熊だった。
コカインでハイになり凶暴化した熊が人間を襲うアニマル・パニック。

アニマル・パニック映画というと『ジョーズ』に代表され、熊も『グリズリー』で人間を襲いまくったのだが、本作はいい意味で何とも不思議な(ヘンテコな?)雰囲気に包まれたパニック映画になっている。

コカイン中毒になってしまった熊の餌食になる人たちにはそれぞれに真っ当な設定があるのだがどことなく変な方向性の持ち主ばかりで、パニック映画のはずなのに笑ってしまう。

麻薬密売人、母娘とその友だち、森林レンジャー、不良少年たち、救急隊、都会の刑事などそれぞれの事情でコカイン中毒の熊がいる森林に集まってくる。
それにハイになった熊が襲いかかる描写はやはり熊らしく怖いし体も食いちぎられてバラバラになってしまうグロ描写もあるのだが、妙にのんびりしたムードが全編に漂う。
いや、のんびりというのは違っていて、人が襲われて凄惨なはずなのに何だか笑えてしまう。
森林レンジャーの女性が誤射して不良少年の頭を吹き飛ばしても平気なんて、熊に追われているとしても普通じゃない。

そんな人たちを次々にコカイン中毒ゆえに襲う熊も、熊の生態などテレビなどで見ているので怖いはずなのだが、コカインでハイになっているときの動きや表情がかわいかったりして逆に愛着がわいてくる。
北海道の三毛別羆事件を描いた吉村昭の小説を1980年にドラマ化した『羆嵐』の熊は本当に恐ろしくトラウマ級だったのだが、本作にこの小説を引用するのは全く違うと思ってしまった。

そもそも森で平和に暮らしていた熊が人間を襲い始めたのは麻薬密売人のせいで、熊は何も知らずコカインを食べてしまったのだから本当に悪いのはやはり人間のほうだと思う。
しかも熊はメスで2匹の子熊がいることがわかった時点で、熊をやっつけるというより熊が殺されたりせず平和に暮らしてほしいと思うほうが人情では?

最終的には、すべての元凶である麻薬王シドを熊が食い殺すという結末になるのだが、その後熊の親子がどうやら平和に暮らせるようになったらしいのは一安心だった。
ただ、熊親子はコカイン中毒のままでその後も人間を襲い続けているようだったが、自然が身勝手な人間に復讐する物語としての着地としてはありだと思う。
中毒を克服して欲しいけど。

ばら撒かれたコカインを摂取した熊が死んでしまったという実話が元になっているので、そんなかわいそうな熊のかわりに映画で身勝手な人間への復讐を描いたのだと思うと腑に落ちる。

人間描写の着地もちゃんとあるのだが、特に感情移入できるキャラもいないので正直麻薬密売人たちの友情物語とか、裏切り者の刑事がどうなったのか、とかはどうでもいい。
ただ犬がちゃんと飼われることになったのだけはよかった。

あまり緊張することはなく、むしろ熊はかわいいし、とにかくアホに寄った人間たちが笑える映画としておもしろいと思った。

『グッドフェローズ』で強烈な印象を残したレイ・リオッタがこの映画でも存在感を出しているが、本作を最後に67歳で亡くなったのは残念。
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