半兵衛

女の叫びの半兵衛のレビュー・感想・評価

女の叫び(1979年製作の映画)
4.1
舞台『メディア』で主演をつとめる女優マヤが、役作りの参考のために作品内でのメディア同様自分を裏切った夫への復讐のために我が子を殺害した女性囚人ブレンダと逢っていくうちに虚構と現実の枠組みを越えていき意識を同一化させていくまでが描かれる。

冒頭から延々と演出家やスタッフなど関係者が主人公たちが演じる舞台のリハーサル風景を披露することで、女優という職業がいかに虚構やイメージという脆いもので支えられている危険な存在かを見る人にわからせる。またマヤ(この名前を出すと某漫画の主人公の方を思い出す)が若さを失いつつある年齢になっていて所々にそれを匂わす発言があり、彼女の焦燥感や不安定な心情が刺さり後半への展開への流れを形作る。そしてその様子を終始ニュース番組の取材スタッフが撮影することで、主人公の世界の基盤が更にあやふやになる。

そんな不安定な状況だった彼女をさらに追い込む囚人ブレンダを、『アリスの恋』で知られるエレン・バースディンが見事に好演。一見すると平凡で穏和な女性なのだが、会話しているとき何の予兆もなく突然別人格が喋りだしかのように汚い言葉で罵ってくる。しかもそのあとすぐに元に戻るのだが、この手の多重人格キャラにある人格のスイッチが入る瞬間が全く解らず本当に別の人が突然会話に割り込んでくる感覚で変貌するので見てるこちらもマヤ同様怖くなってくる。そんな不安定な性格が子供殺しという大罪を犯したことや、マヤが入り込んではいけない領域に入ったことを観客に納得させる。ブレンダとマヤが同じ年齢層であることも結末への流れを自然なものにしている。

途中上映されるベルイマン、王女メディアが子供を殺害するとき使う刃とブレンダが子供を殺すときに使った刃物といったディテールも二人の意識を混濁させるギミックとして機能する。

終盤ブレンダが子供を殺害するイメージをマヤが掴んでから映画は現実か虚構かよくわからない精神が壊れた白日夢のような世界になっていく、マヤは王女メディアとなって舞台で演技はしているがプライベートの彼女の意識は感じられずまるでメディアとマヤとブレンダが同じ存在になってしまったかのよう。ラストに映される誰もいない空間はそれの象徴のようでゾッとしてしまう。
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