ひこくろ

青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ないのひこくろのレビュー・感想・評価

4.4
(原作未読。テレビアニメと前の映画は観ている前提での感想です)

思春期症候群という名の怪現象に振り回されながらそれを乗り越えていく、というこれまでの物語のパターンとは異なり、この映画では怪現象の要素はほぼ出てこない。
描かれるのは、不登校だった中学生の花楓が、兄である主人公・咲太の通う高校を志望して受験に挑む様子。
それだけに、とことん現実寄りの話で、胸に迫ってくるものも大きい。

作りとしてもとても丁寧だなあ、と感じた。
これまでに出てきた登場人物たちは自然な形で現われ、かつ、説明的にならない程度にちゃんと紹介される。
そこに無理も不自然さもないので、観ていて気になることもないし、初見の人でも置いていかれることはないだろうと思った。
いじめによって不登校になった少女が、全日制の学校を受験する怖さや、それでも挑もうとする勇気。
そういうものが、些細な部分からもひしひしと感じられるのがとてもいい。
また、咲太をはじめ、少女を支えようとする周囲の人たちのさりげない温かさにもジーンとくる。

これはシリーズを通して言えるのだけれど、この映画でもとにかく会話のセンスが秀逸。
減らず口の応酬がほとんどなのに、そこにぽんっと素直な気持ちや、相手を思いやるやさしさが飛びこんでくる。
はっとさせられるだけでなく、この緩急はたまらなく心地いい。

と、べた褒めしたい。のだけれど、一点だけ、しかたがない部分がある。
このお話自体がテレビアニメの11話から13話の、言うなれば裏の話なので、そこを知っているといないとで、後半の受け止め方がかなり変わってしまうのだ。
もちろん、ひとりの少女の受験の話として十分に見応えはあるし、それだけでも相当に熱い。
ただ、知っていたらたぶん感動はその比ではない。
ぶっちゃけ、10話までと前回の映画は観なくてもかまわないと思う。
11話から13話まで。それだけ見ておけば、きっと涙なしではいられなくなる。
そして、テレビアニメを見ていた人は絶対に観に行ったほうがいいと断言する。
この映画があって初めて、あの話は完結するのだから。
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