みむさん

Victim(英題)のみむさんのレビュー・感想・評価

Victim(英題)(2022年製作の映画)
3.5
テッサロニキ映画祭にて。

息子を守る母と、良心の迷走、分断された小さな国境沿いの町の静かなドラマ、ストレスがすごい。

チェコに暮らすウクライナ移民のイリーナとイゴールはチェコの市民権取得申請中。
そこで息子イゴールが何者かに襲われる。
息子が放った一言から近所に住むロマ族の仕業だとして捜査が始まる。

重症を負った息子を守り犯人に裁きが下りることを望む母、心配する大人たちになんとか記憶の断片から事件を語る息子、機能しない警察を糾弾し平和な生活を掲げ政治的アピールをしたい市長。

みんなそれぞれ不確定な情報で動き出す。当然捜査が進めばいろいろ分かってくる。

タイトルの「犠牲者」は暴行事件の犠牲者と、その事件をきっかけに政治やメディアの格好のネタにされた一市民のことだろう。

大ゴトになる前に冷静に事実を認める機会はあったが、市民権申請中という「弱み」があるので躊躇する。少しでも不利なこと、ましてそれが事件に絡むとなると、強制送還を恐れるのも状況としてはあり得る。
正直に話したところで移民の話をまともに聞いてくれるかどうか疑問があるんだろう。

どこかで事態を一旦冷静に考えて一連の行動を止めるべきだったと単純に言いきれない移民事情や差別の背景があるのも問題が拗れた要因かも。

しばらくこの母子は心のどこかにしこりが残ったままだろう。
美容院を開くはずの彼女はどうなっただろうか。