半兵衛

戀愛の責任の半兵衛のレビュー・感想・評価

戀愛の責任(1936年製作の映画)
4.2
没落した華族の姉妹二人が新たな人生を掴むドラマを、『女は女である』ヌーヴェルヴァーグかよと思うほどポップなノリで作り上げた傑作。似たような題材の『安城家の舞踏会』が戦争の影響や一族の崩壊によるシリアスな重苦しさを残していたのに対して戦前に作られたこの作品はそんな辛気臭さが一切無いというのも凄い。

村山知義監督の演出は極めて軽快で、どんな愁嘆な場面でもスピードを落とすことなくテキパキと物語をさばいていくのが心地いい。あとそんな商業映画の監督は違う斬新なスタイルに影響を受けてか成瀬巳喜男や石井輝男監督作品の撮影でも知られる鈴木博による凝りに凝りまくった撮影も素晴らしく、作品の軽快さにさらに拍車をかけている。雨が降るガラスに映る登場人物をとらえたり真上からの登場人物を映すアングルなどセンスの良さが光ったアングルも印象的。

主役の姉妹を演じる堤真佐子と竹久千恵子はあまり美人とは言えず、後年は東宝で脇役として活躍することになるものの本作では活発な妹とおしとやかな姉という対照的な二人を好演。特に堤による妹キャラはお金が無いのにホテルに泊まったり、失礼なことをした男にビンタをかましたりと時代を間違えているとしか思えない先進的なキャラに。他の登場人物もみなこの時代の日本人にしては進んだ考えの持ち主ばかりで、恋愛に関しても結構ドライ。

主人公二人がお互いに本当に想っている人に気付きそれぞれアタックをかけて結ばれていく終盤もモダンで楽しい、特に姉が好きな人がいるものの実家の事情を考慮して別れようとするも口論になり、お互いとも愛している→だから離れたくないと変なロジックが働き結ばれる流れになるのが笑える。

マルチな才能を持つ作家村山知義がこれほどまでに進んだ映画を作ったにも関わらず公開当時あまり評価されなかったらしいが、あまりにも斬新すぎたからなのか。それでも異種業による監督としてはそれなりに認められたらしくこの後も何本か監督しているようで、それらも進み過ぎた作品なのかと興味が湧いてくる。

ちなみにこの映画が作られた1936年は清水宏がオールロケーションによる『有りがとうさん』を製作し、溝口健二が山田五十鈴とともに『浪華悲唄』『祇園の姉妹』を製作しておりもしかしたら本当にこの年は日本の映画にとって飛躍的な革新を遂げた時期だったのではと感じたりもする。
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