ビリー

怪物のビリーのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

映画は構造的な面白さがあれば割と観れてしまうし、フィクショナルな構造の徹底が劇に対して寓話性=普遍性を付与することもあるだろう。『怪物』では、おそらく大きくは3回同じ出来事の描写が繰り返される。ガールズバーの入ったビルが燃えた4月のある日から、湊の失踪する嵐の朝までが、異なる視点から反復される。最初は母・早織、2回目は担任・保利、3回目は湊自身。人間(「怪物」)の多面性を見せるための仕掛けとして、反復構造は上手く機能していた。
重ねて、『怪物』は意図的にさまざまな「誤解」が配置された作品でもある。1回目に保利が弁明のなかで使う「誤解を招いたことをお詫びもうしあげる」というような言い回しは、昨今なんらかの問題発言・行動を取った人間が謝罪文などで使用し、さらなる批判を呼び込むフレーズとして知られている。だが、2回目の保利視点、および、3回目の湊視点を通過すると、それが単に責任を回避するための決まり文句として使われている(だけ)ではなく、保利の本心からの言葉でもあることがわかる。湊が自身の置かれた事態をごまかすためについたいくつもの嘘が。
この作品もまた嘘や(虚偽の)噂が人を壊していく。
置かれた問題は全く解決しない、解決することだけが物語ではないけれど……。
ビリー

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