かすとり体力

怪物のかすとり体力のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.3
力量。やっぱ力量よ。

レジェンド3人のタッグ作品ということで期待値マックスだったけど、軽々とその期待を超えてきた。確実に今年ベスト級。

まずもって、テーマとしては結構重ための作品なのに、これまた力量のおかげか非常に映画的、即ち非言語メッセージで雄弁に語る作品であると同時に、2時間通してちゃんっと面白い。

画面に含まれる含意に意識を集中しつつも、物語としての興奮を咀嚼し、嚥下する2時間。非常にリッチな映画体験だ。

また、本作に含まれる一番わかりやすいところのテーマ、「人間の行動って、少し見方が変われば全く違って見えますよね」のやつ、メッセージとしてはある意味ありきたりだと思うんだけれど、これをここまで巧みに、嫌らしく見せつけてくる映画はあまりないのでは。

私、一切の前情報を入れずに本作を鑑賞したゆえ、1部から2部に展開していく際に本作のそのテーマに気づき、その時点で安藤サクラ演じる母親に感情移入しきって身体の中に正義感を漲らせていたため、

「ちょっと待って~~ここで価値転換しかけてくるのほんとやめて~~。俺の中のこの正義感を断罪してくるんでしょ~。まじで性格悪いわ~」と慄いた次第。

さて、このテーマについて自分なりに少し噛み砕くと、やっぱ我々人間って「文脈の生き物」なんだな、と感じたもの。

我々にとって重要なのは行為やファクトそのものなどではなく、その行為が「どのような文脈内に配置されているか」であり、まぁ粗雑に言うと結局その行為の「意味」なんだってことで。

って言語化するとやっぱり当たり前にも感じるけど、これを作品内で構成することで、単なる言語理解を超えて「腹落ち」させてくる力が、本作にはあると思う。

加えて、行為の「意味」から逆算する形で、そもそものファクト認識自体も変わってしまう。というか、我々の認識においてファクトなんてものは何の価値も持たず、我々の認識自体が意味から再構成されたものに過ぎない。ここら辺も作品内で描かれている。

本作、1部と2部の保利先生の人格が繋がっていないという評も見られるが、それもそのはず、あれはそれぞれの語り部が「認識している世界」を再現しているものだからでしょう。世界は人が認識し、脳内に構成して初めて生まれる。唯識論的映画表現。


さて、語りたいことが止まないが最後に2点だけ。

本作のラストシーン、観客に全てを委ねすぎ、等々の批判も多く、それらには大いに首肯するところもあるんだけれど、私はあのシーンが好きすぎる。

確かに一つの物語の閉じ方としては投げっ放し感は否めないんだけれど、そんなん関係なくて、もうなんか好きなのよ。

坂本龍一氏による音楽の凄まじいレベルの素晴らしさと映像の力。これに圧倒されてしまいました。

また、一点本作に苦言を呈するところがあるとすれば、件の保利先生に、物語としてもう少し優しい処置をとれなかったんかいなってところ。

マチズモ的なところなど含め、責められても仕方がない人物であることは分かるが、罪と罰のバランスが悪い。。余りにもかわいそうだ。

以上。

止まらなくなるのでここで終わります。

私は大傑作だと思いました。
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