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怪物のhasisiのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.6
夜の町。
シングルマザーの早織は、小学5年生の息子である湊と自宅マンションで過ごしている。
近所の雑居ビルで火災が発生し、2人はベランダでぼんやり見下ろしていた。
「豚の脳を移植した人間は人間? 豚?」
「なんの話?」
湊が虐められている痕跡が見つかって、早織は学校を訪れることに。

監督は、是枝裕和。
脚本は、坂元 裕二。
2023年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】🐖🧠
[正田文昭]教頭。
[鈴村広奈]保利の恋人。
[広橋理美]野呂佳代。
[伏見真木子]校長。
[星川清高]依里の父。
[星川依里]同級生。
[保利道敏]担任。
[麦野早織]母。
[麦野湊]息子。

【感想】🌃🔥
是枝監督は、1962年。東京出身の男性。
前作の『ベイビー・ブローカー』はレビューを書いたので、よろしければ。

脚本の坂元さんは、1967年生まれ。大阪府出身の男性。
最近だと『花束みたいな恋をした』が『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』でネタにされていた。

監督のラブコールに応えて2人は初タッグ。監督が別の人に脚本を任せるのは処女作以来らしい。
裏表がなくて家庭的な印象。
受けの監督に対して、責めの脚本家。
俳優選びと同じで、好みの相手を探すのが上手い。

🌌〈序盤 早織編〉🪦🚗
安藤サクラ、先生かと思ったらお母さん役だった。

親と子供の距離が近い。
二人三脚で助け合っている。
うちは真逆だったので、子供の頃は憧れていた。
いまは、それはそれで大変だろうから、隣の芝生は青く見える。

子供の異変で、ミステリー調だけど、ポスターで「あ、察し」
あといくつか謎があるので、日常に近いのに初回から吸引力高め。
面白くてぐいぐい引き込まれる。

ジャンプスケアがあるので苦手な人は注意。感情移入度が高いので心臓止まるかと思った。
(監督の作品は、いつも嫌な場面が印象に残る)

🚁モンスターペアレント。
学校を卒業して社会に出た時のような。
理想と現実の違いに打ちのめされる感じ。
早織ママが本音と建て前ではなく、
本音と本音の人だから、権利を主張するけど、
現実の世界では、言葉とは武器のようなもの。
自分や組織を守るために利用されるだけなので、事実確認とか。真実がどうとか重要ではない。
って、中学生男子のような悩みと向かい合える50代脚本家の若々しさよ。
ただ、ママの気持ちを想像しても、中身は小父さん。技巧的で、思考実験的な意味合いが強い。

ほぼデットパン。みんな真剣に変だから笑ってしまう。
明るい野呂佳代が出ていて良かった。張り詰めた空気を和らげてくれるから助かるわ~。

学校現場の再現度がすごくて、近所の子供たちの顔が浮かんできた。
事件が起きて、情報を提供してくれる子が現実と重なる。
日常のすぐ隣にある物語なので、現実と虚構の区別がつかなくなる。

🚇〈中盤 道敏編〉🌀🏫
永山瑛太が先生役。
『リコカツ』で「離婚だー!」って言ってた旦那さん。
若手の先生役にぴったりで全然年取らない、と思えば1982年生まれで40過ぎ。
(怪物かよ)
1幕と打って変わってニッコニコ。
笑顔が気持ち悪い。

小学生の記憶が蘇る教室イベント。
そう言えば、わたしも小学校低学年の時に、友達に貸したハサミが戻ってくる際、冗談で「おら」っと、刃先を振られて、手の平がばっさり切れた時があった。
その後、担任の先生に黒板の前で包帯の巻かれた手を掲げられて、
「ハサミで遊んでいるとこうなりますよ」
と晒し物にされた。
それを思い出した。
「先生も虫のいどこが悪かったのかな」
程度でとらえていたので、低学年のわたしは今より大人だった。
(先生が母の友人で、その影響が大きい気はするけど)

・学校が恐ろしすぎて、先生の成り手が減る。
・切り取ったような断片的な編集なので、1周目は何が起きているのが理解できなかった。

1幕の責めと打って変わり、ベルトコンベアー式の不条理な受け体験。
苦悩に満ちてずっと不穏。胸が苦しい。
絶対的な愛情が心を揺さぶる、子供を喜ばせるための物語。けっきょく一体化しないと許されない世界。

保利先生が酷い目にあうので、母性本能がくすぐられる。妄想する分には1番魅力的な章。

🛤️〈終盤 湊編〉🦥🐌
全部盛り。
・湊と依里の楽しい時間。
・真相編。
・映像と音楽が織りなす享楽の世界。
『かがみの孤城』もそうだけど、監督の年代は、3幕で押し寄せてくる形式大好きだな。
暗闇からの解放感で「こんなに金を掛けずに凄い映像が撮れるのか」って感動させてくれた。

全ての真相が明かされるし、何も分からない。
テキストではなく『LAMB/ラム』のように、映像で見せる手法なので「あとは好きに考察して」まで採用されて、映画見た後も楽しめる作り。

「人は死なない」とか「人生という概念を捨ててください」と口で説明されるより、映画にした方が伝わるのはよく分かったけど、監督の実力が大きい。

【映画を振り返って】🏃🏻🏃🏻‍♂️
🏯羅生門形式。
『最後の決闘裁判』の途中で寝て、ラストの戦闘シーンだけ何回も見たので印象は最悪。
本作の場合も1幕はゲラゲラ笑って面白いのだが、
2幕に入ると眠気に襲われる。
理由は、
・巻き戻る。
・落ちが分かっている短い映画を連続で3本見ることになるので、集中力がつづかない。
とくに章ごとに主人公が変わり、頭の切り替えが求められるので、ついて行けなくなる。

良さとしては、
・短い話で軽いので、さくっとした食感。
・視点が絞ってあるので、真相が知りたくて先が気になる。

アドベンチャーゲームのルート選択のような感じ。
視点絞りが独特で、現実の世界で起きる「悪い噂」「理由が分からない」「誰も知らない」などが体験できる。
一人称が好きなので、好感触ではある。

とくに映画のテーマである“視点が変わると違って見える”と相性がいい。
解き明かされていく気持ち良さを味わいつつ、相手の気持ちを考える、が学べて一石二鳥に。

🌸安藤サクラの演技が怖い。
能面のような顔しているけど、怒りが滲みだしている。

本人が真剣にやるほど可愛らしくて真似したくなる。
朝ドラ『まんぷく』の時もそうだったけど、本作も1周回って笑える。
闇が深すぎて笑顔になれた。
……言語化していると、監督の話をしているような気分に。
(ようするに、分身のような存在なのか。いい子見つけたな~)

🎺校長先生役の田中裕子。
能面のような顔に。こんな怖い役もできる女優さんだったのか……。
(どうなってるの、この映画)
心しかないような人に、心をどこかに置いてきた役をやらせる残酷さ。
(あー、でもギャップがある方が、演じている方は面白いのか……)
心が滲みだしてきて、抑えるのも大変そう。

これで羅生門形式って、地獄の窯の蓋が開いたようだな。
(蝋人形の館かよ)

画面の色使いと演技の変化で菩薩にも見える。
本領発揮で暖かな温もり。
能面の怖さも魅力的だから、両方で田中裕子なのだろう。

「怪物だーれだ」🧟‍♀️
てっきり分断を描いてあるのかと思えば、脚本家から見えている世の中の話だった。
『バービー』の時にした無垢な人の脳内と同じ。
聖人とサイコの2種類に別れる、と表現したけど、本作の場合は、サイコの部分を“怪物”と表現してある。

『どうする家康』の脚本家(1973年生まれ)の場合は、徳川(聖人)と豊臣(サイコ)に別れて殲滅戦を行っていた。終盤は壊れたレコードのようで辛かった。
本作の場合は「怪物でもいいじゃない」と受け入れているので、いい年の取り方をしている。

ジャーナリストの神保哲生さんは「で、結局、誰が怪物なんですか?」って犯人捜ししていたけど「そういう映画じゃねえからこれ!」

🧑‍🤝‍🧑2人の時間。
道敏と広奈。校長先生と湊の時間が好き。
相手の時間を独占できて世界が閉じられるので、満足感が得られる。
とくに終盤の校長先生から、酔っぱらいの小父さんのような中の人が急にメッセージ性を出してくるから、爆笑。
世代間ギャップで話の噛み合って無さ加減が、作品内で繰り返し描かれている“すれ違い”を端的に表しているようで面白かった。

それにしても、カンヌ国際映画祭で脚本賞って。
せっかく意中の人と仕事ができてラブラブだったのに。
監督が湊で、脚本家が依里に別れて複雑な関係に。劇中のように突き放したら、また新しい物語が始まっちゃいますね。💐
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