あーさん

怪物のあーさんのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

とても素晴らしい作品だった。
できるだけ沢山の人に観てほしい、と思った。。

だけど、、
めちゃくちゃ喰らった!









以下、観ていない方は絶対に読まないで下さい。

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観た直後は、主演の子ども二人の清らかさと遺作となった坂本龍一氏の音楽に込み上げてくる感動を抑えきれず、良い映画だった…と思いながら帰路に着いたのだが、、
電車の中で鑑賞後まで封印していた今作レビューを読んでいたら、ある方が"彼らはもう生きてはいないのでは?"と書いていて、え?どういうこと⁉︎ と動揺…。私はてっきり、二人は助かったと思っていたから、動悸が止まらなくなった。まさか、、よく考えると確かに生きていると考える方が難しい状況。
そう思った途端、涙が止まらなくなり、我慢できなくなった。

何?死んでからじゃないと、幸せになれないってこと?酷くない⁉︎
これって、フランダースの犬とかマッチ売りの少女の世界やん!
あかんやろ、、それは。。
もうそこから半日、ドヨーーンとなってしまい、ソファに横たわったまま何もできない。晩御飯もメニューを簡単なものに変更して、何とか作ったという有り様。(不覚にもパンフを買いそびれた…💦)

だったのだが、色々解説や監督のインタビューを読み漁って、辿り着いたのが、是枝監督の"これは、告発ではなく祝福なんです"という言葉。

それを読んで、やっと私は今作の真髄に触れることができた。

最初は、体罰、いじめ問題、モンスターペアレント、学校の事勿れ体質、、それらの決めつけや先入観によって、どんどん違う方向に行ってしまう怖さ、みたいなものがテーマなのかなと思っていた。
怪物はどこにでも現れるけれど、本当はどこにもいなかった、いたのは心に弱さを持つ人間だけだった…そういう話かと思っていた。(あの予告のミスリード感も含めて、上手い戦略!)

それも一つのテーマではあるけれど、突き詰めると、"普通とは何か?"その同調圧力こそ、実は怪物なのでは⁉︎ と思い至る。

個人的には今作の肝と思われる、主人公の湊(小学5年生の男の子)にシングルマザーの母が言う"湊が結婚してふつーの家庭を持ってくれるまでは、お母さん頑張ろうと思ってる"という内容のセリフ。
一見何でもないように思えるけれど、性自認に迷い始めた思春期の入り口に立つ息子にしてみたら、何と残酷な言葉だろうか。。
僕は一生、お母さんの言う普通の家庭は持てない…お母さんを幸せにできないんだ…。彼の頭の中は混乱して、ぐちゃぐちゃになってしまった事だろう。
母親に悪気は全くないし、夫の死後頑張って育ててきた一人息子に対して、上手く寄り添ってあげられない申し訳なさからふと出た言葉なんだろう。

母親として、子どもに携わる仕事をしている者として、決めつけるような言葉や態度に気をつけなければ、と自戒する。(キット イッパイヤッチマッテルナ〜💦)

良かれと思って言ったこと、やったことが裏目に出てしまうことが連続する、、これは坂元裕二のドラマでよく目にするパターンだ。
楽しげな雰囲気の中にとんでもない悲しみを内包させる名手!
(あと、保利先生の彼女のシークエンスは明らかに坂元節…是枝監督にはできない演出!)

是枝監督のドキュメンタリーのようなタッチ×坂元裕二の脚本が見事に融和して、日常に潜む争いの種やディスコミュニケーションを絶妙に描いている。

怪物とは、想像力を無くし、同調圧力に怯え、対話を諦めてしまう私達自身が生み出していることを思い知る。
だから、どんな人にも背景があると知り、'普通'なんて枠を取っ払って、対話をする事を諦めなければ、怪物なんていなくなるはず⁉︎
善悪なんて、簡単には決められないのだ。。

ラストシーンで見た美しい楽園のような風景と解き放たれた子ども達ののびやかな姿は、私達がこれから目指していくべき世界であって、あの物語のラストではないのかな、と思った。

そう思った時に、監督の言う"告発でなく祝福“という言葉の真意が胸に刺さった。。

とても深い、そして色んなメッセージが散りばめられた力作だと思う。

子役の黒川想矢くん、柊木陽太くんを始め、安藤サクラ、永山瑛太らの演技が本当に完璧だった(田中裕子は怪演!)。
繊細な内容だけに、子ども達はかなり大変だったのでは。。


坂本氏の娘美雨ちゃんを想って作られた曲"Aqua"がこのタイミングで流れる奇跡。
彼の平和やこの国の未来への熱い想いを纏った音楽が、あの空間にピッタリだと思った。
人の想いが作品に残るって素晴らしいな。


近々また観に行きたいと思っているけれど、気力・体力のある時に観なければ!!!

めちゃくちゃカロリー消費するから。。
あーさん

あーさん