Oto

怪物のOtoのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.3
「映さない」是枝映画の真骨頂。映画館を出てから数時間話し込んで満足したので、レビューに書き残さずにしばらく時間が経ってしまった。

●わからないから観る
是枝さんから「"わからないから観る"というのが自分の映画に対する考え方で、問いを引き延ばして更新していく、という作り方をドキュメンタリー時代から続けている」 と聞いたことがあるけど、それを突き詰めたような構成と表現。

坂元さんの初稿からこの構成だったらしいけど…他人はどこまでもわからないもので、本当に全員が孤独。
誰かをわかったような気でいるぼくらの先入観はずっと裏切られ続けるわけだけど、だからこそわかられることを諦めた先に救いや美があると感じた。

冒頭で息子が髪を切ってしまうカットもヨリすぎて一体何が起きたんだ?って感じだし、単純に画としても「映さない」ということを続けていて、そこにテーマと表現との一貫性があって凄まじいなと感じた。

ラストの終わり方も「映さない」で徹底していて、普通の映画だったら親子の再会や謝罪を描くんだろうけど、解決は救いではないと思い知った。

一番やばかったのは、車両の窓を煽りで捉えたあのショット。
こんな画と出会うために映画を観ているのかもな〜とすら思ったけど、是枝さんのインタビュー聞いたら
・現場のテストで初めて発見した
・監督自身も「一番好きなカットになった」
・カンヌでも何人も呼び止められて真似された
と話していて、もう一度感動した…。

●時系列を説明しない脚本
構成で唸ったのは、時系列の説明を一切していないのに、「火事」という全員に降りかかる巨大な事件を起こすことで理解させてしまう脚本。そんなことできる…?

映画全体の印象として一番近いのはパクチャヌクの『お嬢さん』だろうか(いわゆる羅生門構成)。構成ももちろんだけど、二人だけの世界に行き着くのも似ている。坂元さん・是枝さんの中では『台風クラブ』への意識が強かったそう。

坂元作品的なセリフの応酬の見せ場とかはそこまでなかったけど、守るために暴れていたんだ…とか、片っぽだけの靴は…とか、出来事に関しては「それしかないだろ!」っていうミスリードをしていて流石すぎる。
ファーストシーンの会話からすでに映画のテーマを明確に提示していたし、対岸の火事に自身が巻き込まれていくような作品だった。

●怪物だ〜れだ
このセリフの意味が反転する瞬間のカードのシーンもすごく良かった〜。二人を苦しめる呪文のように聞こえていた言葉が、二人をつなぐ救いの言葉になっていた。

動物の特徴もどれも二人と対応していて、ナマケモノみたいに防衛本能で乗り切る気持ちは自分もすごくよくわかる。スイッチ切る瞬間ある。

怪物は異常者ではなく「普通」の中にいて、その普通が誰かを苦しめている。「ヒトラーはあなたの隣人だ」というような文章を大学で読んだことがあるけど、「わかりやすさ」の罠によって抜け落ちていくいろんなことをこぼさずに生きていきたい。


その他
・「鼻と接触する」シーンをはじめとして、コミカルさが共存しているのすごい。
・高畑充希が一番やばいやつに見えたな〜初登場のシーンからかなり直接的にひどいこと言ってた。
・楽器の音までも伏線にしてしまう。吐き出せないことを吐き出しているというだけで、校長の見え方が変わる。
・子役は是枝式の現場で伝える演出をやらずに、インティマシーを配慮してやっていたそう。演出進化させるのすごい。
・安藤サクラの車の色がすごく特徴的で意味があるように感じた。肌の色とかなんだろうか。
・またしてもすぐに書かなかったのでいろんなこと忘れてる気がする、また時間をあけて観たい映画になった。
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