netfilms

レディ加賀のnetfilmsのレビュー・感想・評価

レディ加賀(2023年製作の映画)
3.7
 昭和な親方がドヤ顔で呟きそうな今作のダジャレ的なタイトルには流石に困惑したのだが、10年くらい前から石川県には実際にこういう名前の旅館の女将たちによるプロモーションチームがあると聞いて納得した。肩の力の抜けたこのタイトルの時点で観る者を選ぶ作品だと思うが、あえて地雷に突っ込む私の判断には読者様がどう想うのかは定かではない。然しながら今作は決して悪い映画ではないのだ。加賀温泉にある老舗旅館「ひぐち」の一人娘、樋口由香(小芝風花)は、小学校の時に見たタップダンスに魅了され、上京してタップダンサーを目指していた。しかし、現実はうまくはいかず、代打の代打で夢を諦めた彼女が実家にUターンして女将修行を始めるというのが物語の骨子で、温泉・女将と来れば正に昼ドラ的な主人公の成長物語で、それ以上でも以下でもない。彼女の母親が檀れいで、女将さん修行の先生が佐藤藍子。そしてボーイ・ミーツ・ガールな男(森崎ウィン)とは既にUターンの車中で出会うというのが鮮やかな手捌きで、加賀を盛り上げるためのPR活動を森崎ウィンとかつての彼氏役の青木瞭が演じるという人物の相関関係が明瞭で、主人公の半径数メートルに全てを収めるという極めて能率的な編集が巧い。

 最初は何をやらせても不器用なドジっ子で、根性も覚悟も持たない主人公が加賀の地を盛り上げようと、やがてリーダーになって奮闘するというのが物語的なミソで、物語の筋道が誰が見てもわかり易く、迷わない。いわばご当地映画の中にご当地PR的な出来事を入れ込むというある種のメタ的な映画なのだが、イマドキ珍しいほど物語がわかり易い。前半の苦戦する女将修行から後半への急な展開には驚くものの、佐藤藍子に女将修行の黒幕を語らせることでそういう魂胆があったのかと納得させる。今どきこんな調子の良い男がいるのかと思いながらも森崎ウィンの演技がキレキレで、松田るか、中村静香、八木アリサら端役にまで見せ場を用意しながら終盤まで丁寧に盛り上げる。然し決して端役の物語にまで首を突っ込み過ぎず、脱線しない。全ては主人公の樋口由香の物語に集約される辺りが絶妙に巧い。ただ一つ残念なのは主人公の小芝風花のタップの練度で、おそらく『座頭市』のタップシーンの振付師のHideboHが監修し、出演もしているのだろうが、これを言っては元も子もないが『座頭市』チームのタップであれば最高の高揚感だったに違いない。然しながら俯瞰で眺めつつ、物語に気を配りながらそれぞれの役柄を鮮やかに着色して行く雑賀俊郎のあしらいは見事で、お気楽ご当地映画の中では比較的綺麗なレイアウトに収まる。
netfilms

netfilms