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ゴジラ-1.0のhasisiのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.1
昭和20年。小笠原諸島に位置する大戸島。
守備基地の滑走路に1機の零戦が着陸した。
パイロットの名は、敷島浩一。
故障を理由に特攻を断念したのだが、整備兵の橘は機体のどこにも問題箇所を見つけられなかった。
その夜。
恐竜の大型獣脚類のような見た目。全長15メートルを越す怪物が基地を襲来。整備兵たちはつぎつぎと襲われ、犠牲になってゆく。
その恐ろしい姿は、島の伝説として語り継がれる生物、ゴジラと酷似していた。

監督・脚本は、山崎貴。
2023年に公開された叙事詩・怪獣映画です。

【主な登場人物】🛩️🏝️
[明子]幼児。
[秋津 淸治]新生丸の艦長。
[板垣 昭夫]民間の係長。
[大石典子]同居人。
[太田 澄子]隣人。
[敷島浩一]主人公。
[橘 宗作]航空隊の整備士。
[野田 健治]元技術士官。
[堀田 辰雄]雪風の元艦長。
[水島四郎]見習い。

【概要】🚢💣
ゴジラシリーズ37作目。ゴジラ誕生70周年記念作品らしいです。

山崎監督は、1964年生まれ。長野県出身の男性。
CG、VFX、ミニチュアなどを製作する株式会社白組に入社。
2000年に『ジュブナイル』で長編映画デビュー。
代表作は2013年の『永遠の0』
本作が20本目、かな?
ちなみにわたしは、『DESTINY 鎌倉ものがたり』が好きです。

2017年に東京オリンピックの式典プランニングチームの一員に選ばれるが、同大会の延期に伴い、チームの解散と共に退任した経験を持つ。

【感想】🏙️🦖
🚃VFX。
終戦直後の東京を舞台に怪獣映画の再構築。
怪獣が一体限定の分、
成長、巨大化による街の破壊、照射熱線、爆発など、あらゆる破壊を見せてくれる。

歴史に残る特撮やアニメの集合体だが、本作の特徴は、ディティールの細かさだとか。
水しぶきや、砕けたコンクリート片。精巧な街の魅力に引き込まれる。

大災害か、ICBMの直撃か。
人類を一瞬で散りにする迫力の映像が生み出し「ぜったい倒せない」
恐怖が植えつけられる圧倒的な存在感がある。

船の揺れ。機関銃の反動。拭きつける熱風。地滑りなど。CGと人間の演技が見事に融合していて、臨場感は抜群。
とくに画角とスピード感が魅力的で、『タイタニック』や『キングコング』愛が伝わってくる。

細かい所をいえば、物足りない場面もいくつか見られるが、予算の問題。作っている当人たちが一番分かっているので、とやかく言うつもりはない。

意外なのが、まさかの年齢制限なし。過去作と比べても、人体破壊や血しぶきなどの残酷描写をはぶいてあるので、家族連れで楽しめる。
(相当怖いけど)

戦略性。
仕掛けを用意して、敵を倒すためのいくつかの作戦。
ブリーフィングや準備期間も、戦争映画好きの個性が活かされていて、同胞には楽しい。
過去に経験したゲームの記憶が呼び覚まされて、友達の家に遊びにきたような安心感。

ただ、最終作戦はちょっと。
シチュエーションの都合上、映像に迫力が出ない。
海面ぎりぎりを飛ぶ戦闘機のスピード感も物足りない。
(『紅の豚』を見返したけど、速度が段違い)
爆発の衝撃も控えめだった。

敷島がトラウマと向かい合う分かりやすい伏線と、回収までの長さ。逆に、有名映画でよく見かけるお馴染みの展開は、伏線が弱いので唐突な印象を受けた。
会話と回想も邪魔で、盛り上げるためだろう、急にスローモーション。テンポロスが著しい。ここまで散々刺激されたスピード感に期待が膨らみ、クライマックスで提示された映像との溝で、爽快感が損なわれてしまった。

🏚️復興のドラマ。
根暗で頑固な、山崎監督節全快。
うじうじ、うじうじ地獄の一丁目に連れていかれる。
戦争の闇。性格が時代設定とぴったり合っていて、七三に分けた前髪の垂らし具合からも「ゲゲゲの鬼太郎」が出て来たのかと思った。

朝ドラで繰り返し描かれてうんざりしている、軍国主義の高出力バージョン。
日本を代表する名優たちが怒鳴る場面が多いので、ASD寄りの人だと辛いかも。
そして、ツンデレ。
つきあうと命がけ。頼りになる奴ばかり出てくる。

🪖監督の庭。
過去作の集大成で、実力が引き出せる仕様に。
いままでゴジラを作っていなかったのが不思議なくらい馴染んでいる。
戦争を題材にして、明るくて暗くてオタク気質。糞真面目な日本兵が乗り移ったかのようなウザさ全快。コメディの才能も滲み出していた。

定期的に雷が落ちるみたいにゴジラが顔を覗かせてめちゃくちゃ笑える。
感情の爆発と、その後に熱を失ってマグマが溜まるまでの冷却期間のギャップがすごい。
相変わらずのハイテンションぶりで。1度、演技指導の現場を覗いてみたい。
監督の個性に全力でついていく俳優陣にも頭が下がる。

公私混同。
脚本では、親の仇のように国への恨み辛みがぶつけてある。
魂の叫びのようで筆も乗る。

一方で、生き残ってしまった零戦乗りの物語は、どこかで聞いた事のある決め台詞のオンパレードで、まるで出がらしのお茶のようだった。
戦い続ける男の姿がそこにある。

……とは言え、錯乱した心理状態を第三者ではなく、本人が冷静に説明するのだけはどうにかしてほしい。
「いい加減、共同脚本家を雇ってくださいよぉ」
「監督はな、孤独を愛する人だから、そういうやり方は好かんのだ」
「そんな事はどうでもいいっ! この完璧な脚本のどこを直せって言うんですか‼」
(脳卒中で倒れるわ)

🍚いい意味でゴッコ遊び。
わたしは物心ついた頃から、日本の軍隊の話が苦手だったのだが、本作の場合は民間の横の繋がりの物語。上官の命令や規律がなく、制服組の威圧的で嫌な感じがしない。
作っている人が柔らかいから、緊張感が高すぎず、居心地がいい。

巨大なゴジラと対照的に、小さな漁船や一戸建てに注目してミニチュアのよう。
まるでドラえもんが道具を出したかのようなサイズ感。
今回は、木の温もりがテーマ。
神木と浜辺のコンビも『らんまん』の時には何も感じなかったが、本作の場合は、ママゴトのようで魅力的。

🧟戦争の亡霊。
過去作で「災害のメタファー」とか説明されると「へーそうなんだぁ」程度で今一ぴんとこなかったけど、本作だとPTSD。戦争帰還兵の罪悪感。フラッシュバックとして現れるので、想像しやすい。

ホラー映画における追跡者なので、馴染み深い。
ただ、当時の日本人の価値観によって戦いへと駆り立てられるので、どこか他人事。感情移入度は低かった。
歴史を学んでツッコミを入れてあるけど、軍国主義のボケの部分は削ぎ落されているので、山崎映画ファン前提のつくりだった。

【映画を振り返って】🏗️🛟
🧑‍🔧令和ゴジラ。
小さい頃からゴジラとウルトラマンを浴びて育った世代だが、それこそテレビで流された物はすべて。劇場にも付き合いで何度も足を運んでいる。
それなのに、全く填まれなくて。ファンの熱い思いも考察も何も頭に入ってこなかった。
唯一、好きだったのが平成ガメラぐらい。

箱庭のような小宇宙にしか興味がないのが理由で。
本作も「ジュラシック・パークを彷彿させる体験型映画」と「山崎の演出がくどい」と聞いていたので、子供向けだろう、と高を括っていたが、面白くて度肝を抜かれた。

VFXの魅力はもちろんだが、人間ドラマも家族と、頑張る中小企業に絞ってあり、政治が入ってこないので、感情移入しやすい。
ゴジラと向き合っている時間も短く、敷島の内面にフォーカスしているので、怪獣オタク以外も楽しめる。

同時に『グエムル 漢江の怪物』もそうだけど、韓国に対してコンプレックスがあったのか、と改めて気づかされた。
全米での歴代邦画実写映画興収第1位。
世界に誇れる日本。
こんな映画が生まれたら気持ちも大きくなる。
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