緑雨

ゴジラ-1.0の緑雨のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.5
「わだつみ作戦」がついに実行に至るまさにその瞬間、伊福部昭のテーマ曲が流れ始め、背中がゾクっとする。ここから急に別の映画になったかのように空気が一変。茶番にも思えるその後の展開に不覚にも感動してしまうのは、この伊福部音楽あってこそのものだろう。

キャラクタの一貫性の欠如、都合の良すぎる展開は多くの人が指摘する通り。まあそのあたりは映画的虚構として目を瞑るにしても、神木隆之介の「もうすぐメッセージが届くはずです」とのセリフには個人的にドン引きした。「メッセージ」って…時代感の創出を軽んじすぎだろう。

キャラの一貫性という点ではあやや難ありだが、この映画の浜辺美波は好いと思う。『ALWAYS 三丁目の夕日』の薬師丸ひろ子の若い頃みたいな感じで、ほのかな色気も漂わせる。あと、青木崇高は改めてよい役者だなと。

ところで、本来ゴジラは核戦争のメタファーだったはずだが、この映画ではゴジラは人が生み出したという要素が基本的に捨象されている。大戸島でのファースト登場シーンからして、積極的な意思をもって攻撃しているように見え、徹底的に邪悪な存在として描かれる。銀座を破壊するシーンなどかなり直接的に核攻撃を彷彿とさせる描写もあるのだが、どちらかと言うと天災に近い扱い。

「この国は人の命をあまりに粗末に扱ってきた」というセリフがあったが、生命を犠牲にしないことを尊ぶ現代的感覚は肯定するものの、一方でこの映画が粗末に扱われてきた様をきちんと描いていないのはフェアでないとも感じる。犠牲にならないのは目に見える範囲の人(=主要登場人物)のみで、その裏で生命を奪われた無数の人々はその存在を意識もさせられないのだ。
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