回送ペリカン

ゴジラ-1.0の回送ペリカンのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
1.5
まず怪獣ゴジラそのものの感想。
造形はいいと思う。自分にとってのゴジラの造形の正解はシンゴジなので好みではないけど、長い手脚から今回はよく動き回ってアクションしてくれるのかな〜とか想像できたし、背びれのトゲトゲしさも好き。
冒頭のエメゴジみたいなのが暴れるところ、大迫力でしっかり恐ろしさもありすごくよかった。ゴジラが巨大な背びれを海から突き出して泳ぐ姿がすごく好きで今回のもトゲトゲしててよかったが、首出して泳ぐのは姿勢も想像出来ないしなんか面白かった。
銀座上陸の時の歩き方にも違和感。手脚の長さを使ってアグレッシブなアクションをさせるのは全然いいけど、歩く時だけ背筋ピン三角形貫禄ゴジラになるのはちょっと“変だな”と感じた。しかもアクションも歩行もところどころ重量感に欠けて、カットごとの統一感がないように感じた。アクションの方向性にしても、恐竜ならずっと恐竜に振り切って欲しくて、縄張意識を持つような動物としてのゴジラや条理を超えた破壊神としてのゴジラなどがカットごとにツギハギされてるように見えてならなかった。ゴジラは戦没者の亡霊などという解釈を採用するもしないも勝手だが、そういう見方が世間にそれなりに共有されている中で、ゴジラというものに何を象徴させるかをある程度コントロールしないとテーマがブレるのでは?戦後を舞台にするならなおさら。
最後の海の作戦で、浮き上がってきた手負いの憤怒ゴジラは超カッコよかった。

戦争帰りの人たちが「今度は役に立てる!」という動機で団結してゴジラに立ち向かうというドラマが単純に理解出来なかった。それは自己犠牲によって国や誰かのために自分の命を使える!ということ?いのちだいじにとか武器を使わず倒すとかのスタンスを各所に滲ませてたけど、肝心の動機が敗戦のフラストレーションやトラウマの克服になってしまったら、そんなスタンスは取ってつけただけの綺麗事にしか聞こえなくて、結果最後は誰も死なずに済んだのも結果オーライにしか映らない。兵器使用への葛藤とか現場に生身で赴く覚悟とか、全部シンゴジでもっとズッシリしたものを見せてもらってるんですけどね…という感想しか出ない。放射能の肉片とか、化学的な作戦とか、アメリカに頼る頼らないとか、ラストカットとか、シンゴジを思い出すけどその全部が上澄みでしかなく全然芯食ってこない。今のほとんどの観客はシンゴジを踏まえた上でそういう小道具を受け取るに決まっているのに、そんな適当な使い方あるかいな。
そして信じられなかったのが、最後誰に敬礼したんだ…?というところ。表情や続くカットからしてゴジラに敬礼してるようにしか見えなかったのだけど、本当に、どういう作劇になっているのか理解できない。いわゆる戦没者の亡霊としてのゴジラへ?そんなゴジラどこに描かれてたんだ。それとも沈みゆく敵艦に敬礼!的な?今回のゴジラと人間の間には「仕留めるべき巨大不明生物」以上の複雑な関係性は見えなかったからそれも不自然だと思う。自分はこの作品を「戦後の立て直しに微妙に失敗している占領下日本(現実日本の暗喩?)が、天災ゴジラに再び破壊されることによって、民衆が団結してゴジラも被占領根性も克服する」物語なのかな?と今のところ戸惑いながら理解しようとしているのだけど、ゴジラが一体何者なのかはこの作品中にはハッキリとは描かれていなかったと思う。ある意味動物本能的な行動原理(縄張り意識、攻撃者を追いかける)を持ってる風のゴジラが、どういう動機で戦後の街を破壊しにきた=ゼロをマイナスにしに来たのか分からん。そこ今回の最重要テーマだと思ってたが…テーマもゴジラの姿も何にせよ、文脈や定番解釈はあれど作劇もメタファーも作品単体でひとまず成立するのが大前提だし、ちらつかせた小道具はなるだけ回収して欲しい。
とにかく1番に出る感想は、初代ゴジラと同じ戦後の舞台設定をデカデカとフィーチャーしておいてテーマ性が希薄すぎないか?ということ。
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