ゆめちん

それでも私は生きていくのゆめちんのレビュー・感想・評価

それでも私は生きていく(2022年製作の映画)
3.5
それでも私は生きていく
 
通訳者として働きながら、パリの小さなアパートで8歳の娘リンと二人で暮らすサンドラ。元哲学教師だった父のゲオルグが病で視力と記憶を失いつつあり、そんな父の変わりゆく姿に心を痛めていた。
 
冒頭、父の家のドアを開けるのを躊躇するサンドラ、なかなか姿を現さない父。2人の関係性に何か問題があることを予測させる巧妙な入りで、一気に引き込まれていく。
 
特に大きなことが起きる訳ではなく、ひとりの女性の日常を静かに追っていくだけだが、それが逆にリアル。個人的にはクリスマスのシーンと、父の蔵書を片づけるシーンが印象的。

頭脳明晰だった最愛の父が視力や記憶を失っていく中、父がサンドラの顔を認識できなかったり、実の娘よりも愛人のレイラを頼りにしたりと観ていて辛い。それでも凛として生きていくサンドラがたくましく映る。
 
主人公のサンドラ、サンドラが恋する妻子持ちのクレマン、父ゲオルク、ゲオルクの愛人レイラ、サンドラの母でゲオルクの元妻フランソワーズ。なかなか理解できないところもあるが、それぞれが複雑な関係でありながらも、お互いの生き方を認め合い、違和感なく当たり前のように、そして自由に生きているところがいかにもフランスらしい。
 
監督は "ベルイマン島にて" でも複雑な人間心理を描いたミア・ハンセン=ラヴ。監督は神経変性の病を患った父のケアをした経験から着想を得て、この物語を作り上げたのだそう。
 
 今まで "特別な女性" を演じてきたレア・セドゥ。本作では一転、短髪、ナチュラルメイク、シンプルな装いで登場。完全にオーラを消しつつ30代女性の喜怒哀楽を繊細に表現。落ち着いた展開の中にも、サンドラの秘められた感情がしっかりと伝わってきた。
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