このレビューはネタバレを含みます
既視感の強いベタな話ではあるのだが、監督と役者の上手さでなかなか心にしみる作品に仕上がっていた。
かなりの登場人物が出てくる人情物ながら、全員が無駄になっておらず、ごく短い出演時間しかないキャラクターにもしっかりと命が吹き込まれている。一つ一つの会話はくだらなくて温かくて、各人物の個性が浮き出る作り。
小出恵介は復帰後久しぶりに観たが、こんなに良い役者だったか?と驚いた。実質狂言回しのような役回りを務める吹越満も、かなりずるいキャラで完璧。
そして何より圧倒的な宇野祥平。素晴らしすぎる。彼の演じたホームレスが、この映画をグッと深いものにしている。「金がなくても月に2本は観るようにしてる」と言い、観終わった後に合掌して映画に感謝する。自分はコンテンツを消費するように映画を観てしまっていないだろうか、ここまで真っ直ぐに映画に向き合えているだろうか、と思わず自問自答してしまった。
ラスト、状況的には全員元に戻ってしまっているようにも見えるが、それでも各々が心に何か大切なものを持って新たに踏み出そうとしていることが伝わってきた。
話自体に目新しいことはなく、ご都合主義の塊のような展開が続くのだが、それでもこの温かい空気にいつまでも浸っていたいと感じるような、とても良い映画だった。