このレビューはネタバレを含みます
原題『Le bleu du caftan』、シルクカフタンの艶やかなベトロールブルーは、夫婦の愛の象徴だろうか。
『モロッコ、彼女たちの朝』のマリヤム・トゥザニ監督作品。登場する女優も同じ（ルブナ・アザバル）。そして今回もモロッコ社会の中で生きる人の話。
各国LGBTQの色んな映画が出てくるなぁ。ハリム（夫）もミナ（妻・異性）と結婚し、相手を愛していることに間違いない。信頼や家族への愛と、性嗜好は別ということか。戒律ではタブーかと思ったけど、モロッコって緩いのかな。
カフタン職人のハリムの葛藤も、なんとなく気付いている妻のミナも、二人の間にいる若い職人ユーセフ、それぞれの苦しく切ない心の揺らぎを静かに観せる。
死を目前にしてもムスリムとしてミナが礼拝する様子は、苦しみや葛藤をアラーに問う（いや“委ねる”かな）。痩せ細って肋骨が浮くミナの背中（凄まじい女優魂）や乳房切除の傷痕が、心の傷みとリンクしているようで。
ラストのシーンは、良かったね、と思うか、モヤっとするか。
この映画での見どころはカフタン！
モロッコの民族衣装カフタンを全て手作業でこなす職人の拘りがわかる。現代では、その生地やデザイン、色や刺繍が持つ意味をそこまで求めなくなって、それでも伝統的な装飾技術に誇りと拘りで細々と作業するハリム。余計なBGMも少ない、ただシルクに刺す針や糸を引く音が耳に届く。町の人や路地裏のラジカセから流れる音楽も旧市街地の一画に没入したかのよう。モロッコの喫茶や大衆浴場やその個室なんてディープなところも、映画でしか知り得ない。
