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高速道路家族のhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

高速道路家族(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

監督・脚本は、イ・サンムン。
2022年に公開されたドラメディ映画です。
※アラスジを最後まで。その後に感想を。⚠️

【主な登場人物】🛣️👨‍👩‍👧‍👦
[ウニ]長女。9才。
[ギウ]夫。
[ジスク]妻。
[テク]下の子。5才。

🛋️その他の人達。
[オ・ヨク]刑事。
[ツェテン]従業員。
[ドファン]ヨンソンの旦那。
[ヨンソン]店の主。

【アラスジ】🎒👛
サンムン監督は、おそらく1981年生まれ。韓国出身の男性。
今回がデビュー作です。

韓国の通貨、ウォンを日本円に変換する場合は、おおよそ10分の1で計算します。
2万ウォンであれば2000円です。
(現在は円安なので、厳密には2260円ぐらい)

🏕️〈序盤〉🏪🚗
韓国の礼山郡。冬の手前の季節。
ギウは4人家族の若い父。妊娠している妻ジスク、9才の娘ウニ、5才の息子テクを連れている。ミサンガを吹きながら国道を徒歩で移動。元気で明るいチャン一家。
線路を歩き、山道を歩いて高速道路にあるサービスエリアの裏手に到着。フェンスを越えて、芝生に木々が植えてある緑のエリアに侵入。
4人家族が眠れる黄色いテントを張った。

ジスクは人で賑わうフードコートの前に立って人探し。駐車場で自家用車に戻る夫婦に目星をつけて話しかけた。
「妻の実家に帰る途中なのですが、すられたのか財布が見つかりません。ガソリンが切れてしまったので、2万ウォン貸してもらえないでしょうか?」
怪訝な顔をされるが、子供が走ってくると成功。名刺ももらい、振込先を確認してから笑顔で別れた。

4人はテラス席でカップ麺を頬張る。残りはジスクの財布で貯金。
翌朝。係員に見つかってテントの撤去を命じられるが、適当にあしらって二度寝。
充分寝たら公衆トイレの洗面所で顔を洗う。備え付けのハンドソープで頭も洗う。
朝食はフードコートへ。ピリ辛スープに白米大盛り。キムチなどの3種類の付け合わせを4人で分けて食べた。

ヨンソンは、中古家具屋を個人で経営する中年女性。仕事の途中で立ち寄ったサービスエリアの女子トイレの洗面所で、水道水を飲んでいたウニと出会う。
室内でラーメンを食べていると、姉弟が物欲しそうに中を覗いているので気になる。
車に向かうと、ギウに話しかけられた。
金の無心を最初は断るが、3人の家族を紹介されて心が動いた。2万ウォン求められるが、7万ウォンと名刺を渡して別れた。

チャン家族はフードコートで夕食。臨時収入のおかげでスンドゥブチゲ、ビビンバ、お子様ランチで豪遊する。
食後は駐車場に堂々とテントを張り、歌って踊ってみんなが集まってきて花火が夜空を彩り丸いお月さまが綺麗。
――夢だった。
うるさくて早朝にウニが目を覚ますと、昨日の係員の姿が。ギウと取っ組み合って転倒。テントのポールが折れてしまった。警察を呼ぶと騒ぐから、4人は退散。トンネルを抜けて次のサービスエリアを目指した。

🏕️〈中盤〉🍚🖍️
ヨンソンは、またサービスエリアの駐車場で金をせびっているギウを目撃。
姉弟がかくれんぼしている。テクがトラックの下に隠れて。弟を助けようとウニが車の前に飛び出すから、慌てて飛び込んで助けた。
2人を連れてチャン夫婦が休んでいたベンチに連れてゆくと、逆切れされた。携帯で警察を呼ぶと、荷物を置いたまま慌てて逃げる4人。
刑事のオ・ヨクが後輩を連れて参上。似たような被害届けが何件か届いているのだとか。監視カメラで親子を確認し、捜査が開始された。

夜更け。国道を歩いて町まで逃げたチャン一家。ジスクは、憔悴したギウをなだめる。姉弟は自動販売機の下を漁って小銭集め。コンビニでカップラーメンを全員分。足りない分は不憫に思った店員がご馳走してくれた。お湯を入れて公園で待つ両親の下へ。
ジスクとテクは公衆トイレの個室で眠り、芝生に段ボールを敷いて寝ていたギウの隣へウニが横たわる。
「学校に行って字を習ってみたい」
「……ごめんな、ダメなお父さんで」

翌朝にはヨク刑事の職質がギウに。詐欺の嫌疑をかけられ、逃亡するから確保されて手錠。ジスクも同行すると願い出た。
警察署での取り調べ。ヤンピョン洞再開発詐欺事件での横領の疑いで指名手配中と通達。留置所へ。
ヨンソンは、牢屋に入れられるギウを見届けてから、警察署を後にした。玄関先で雨宿りしていた母子を見るに見かけて、家に連れ帰ることに。

礼山郡から南へ。夜にはヨンソンが経営する全北(チョンブク)中古家具屋に到着。
広々とした店内に古ぼけた家具が山積みされている。テクはソファーに寝そべり、久しぶりのふかふかの感触にご満悦。
ダイニングキッチンで甘辛豚のご馳走。飴色に焼けた分厚い豚バラ肉をレタスに巻いたり、タレと一緒に白米に載せたり。温かな食事が振る舞われた。

翌朝にはヨンソンの夫、ドファンが出勤。「すぐに追い出せ」と懐疑的だったが、店内でかくれんぼしていた親子の可愛さにイチコロ。ベトナムからの移民である従業員のツェテンを紹介される。
ヨンソンと姉弟は教材を買いに文房具屋へ。店に戻ると、ジスクの掃除で埃を被っていた家具はピカピカに。
ウニは文字を教わり、テクはジスクと子供用のバトミントンで遊ぶ。
ヨンソンは亡くなった息子を思い出して泣き。ウニの伸びた髪を編みながらまた泣いた。

🏕️〈終盤〉🛢️🍲
留置所を脱走したギウは家族の支えを無くし、過去を思い出して鬱状態に。消費者金融で金を借り、ヤクザに暴行された悪夢がフラッシュバック。
早朝のバス停で目を覚ました。
サービスエリアでヨンソンに金を借りる際に名刺をもらっていたのを思い出し、中古家具屋を目指す。
家族と引き剝がされた逆恨みをぶつけようと建物に近づくが、庭先で妻たちが楽しそうにアイスを食べていたので気が動転。慌てて草むらに隠れた。

ウニが1人で外出したのを狙っていきなりハグして驚かせるが。
「お父さん臭い!」と突き放された。
お願いしてこっそり、白米にキムチや夕食の残りをボールに入れてもらい、猫まんま。食事を恵んでもらう。
ジスクへ言伝を渡し、夜中に2人でこっそり会うが。
財布を渡され、「ここに残る」と別れの挨拶。
「前みたいに楽しく暮らそう」とせがむが、土下座して拝まれ「お願いだから離れて」と涙ながらに訴えられた。

数日後。ヨンソンはウニを連れて小学校へ。無事に来年の新学期から1年生に。
ジスクは施設育ち。働いていた食堂で当時、大学生だったギウと出会って恋仲に。
やがてウニを授かり、結婚した。
ギウは大学を辞めて、職を転々。保険の仕事で、再開発組合に参加して投資。多額の借金を抱えたのが、世捨て人に身をやつした理由だった。

夕暮れ。6人は敷地内にテーブルと椅子を出し、ドラム缶で火を焚いて夕食の準備。
幸せな風景を切り裂くように、ギウが現れた。顔中に赤土を塗りたくり、チブルノリのように紐を通した空き缶に燃える黒炭を入れて振り回し、まるでゾンビのように近づいてくる。
「俺の家族を返せ」
慌てたヨンソンが携帯で警察を呼び、暴れるギウをドファンとツェテンが取り押さえる。ドラム缶が倒れて、積み上げられていた棚に引火。
慌てて消そうと布で叩きにいったジスクの衣服に炎が燃え広がる。家具の山は瞬く間に巨大なかがり火に。
ギウは妻を助けようと身を呈し、崩れる瓦礫の下敷き。
かけつけた消防隊によって消火活動が行われて火は無事に沈下。丸焦げになったギウの下からジスクが救助され。
子供たちはいつまでも泣いていた。

数ヶ月が経過。
無事に赤ちゃんは生まれて、母子ともに健康。
ウニは小学1年生に。友達もできて、笑顔で学校に通っている。
帰り道の歩道橋で浮浪者を見かけて、一瞬父の姿と重なる。小銭をカップ麺の容器にそっと入れて走った。

お父さん、私は元気で学校に通い、しっかりご飯も食べています。
今日はキックベースをしました。
お母さんとテクも元気です。
お父さんに会いたいです。
また手紙を書きます。しっかりご飯を食べて元気でね。


【映画を振り返って】👩‍🍼💌
遠足するファンタジックなコメディ。
高速道路のサービスエリアの芝生にテントを立てて暮らす家族。
日本だとその日のうちにスタッフがきて、退去されるだろう。
このリアリティの無さのお陰でほのぼの。作品の魅力に繋がっているから、演出の微妙な違いで印象は大きく変化する。

わたしは『万引き家族』が苦手で、途中で離脱した。
何より、苦手だったのが暗い色味。
本作の場合は牧歌的で、映像も黄色がかったフィルターをかけて、温かくしてあるので、忍耐力がなくても耐えられる。
高速で行きかう車の流れに逆らい、徒歩でのんびり移動する家族の姿は、むしろ明るくて楽しそうにさえ見えた。

💁‍♂️パパが捨て身。
プライドが低くて、笑顔。家族のために最前線で戦ってくれる。細かいこと気にしないので付き合いやすい。
いい意味で馬鹿。
こういう人は役に立つので、グループにいると助かる。
……家族をホームレスにして「頼りになる」と表現させてしまう奇妙さも、社会への疑問を投げかけて、色々考えさせられた。

🪑中古家具の買い取り。
監督の奥さんの実家がモデルらしい。
身近な世界なので、「うわ~」
店を畳む相手の大変さを思って、金を出し過ぎる人がいれば、いかに値切るかで頭がいっぱい、まずは買い取りの安さをアピールする人がいて、経営者もそれぞれ。
ヨンソンの場合は、相手に無理やり金を握らせるようなお節介焼きの方だった。
つづけていけるのが大事なので、どちらが正しいとも言えないけど。

どこかで店が潰れれば、電話で呼ばれて遠出するので、サービスエリアで家族と出会うのも不自然ではない。

👨‍👩‍👧‍👦疑似家族。
心の隙間を埋め、仕事を手伝い、助けてあって生きていく。
「住むところが無ければ、家に来ればいい」は幻想的で甘い誘惑。
実際は、病気を持ち込む、男を連れ込む、借金の肩代わりなどトラブルの元、って劇中でも同じ状況なのか、と思えばリアルだ。

ヨンソンにとっては、ジスクは娘。ウニとテクは孫のような存在に。
わたしの同世代も、孫ができた人たちがちらほら。2つの家族もそうだけど、3世代を上手く描いて、監督の経験の豊富さがうかがえる。
わたしは、欲求不満でイライラしている人に八つ当たりされるより、孫自慢されている方が楽。性格上、同世代には気を使うので、老人や子供の相手をしている方が性に合っている。

🍶泥酔して喧嘩。
普段いい人ほど、ストレスを貯め込んでいるので危ない。
それに命知らずが加わると、歯止めが利かないので新聞沙汰に。
身近にいる人たちばかり出てくるので、ドキドキする映画だ。

🔥崩壊。
終盤に入ると、黄色いフィルターもなんのその。辛い現実が突きつけられる。
家族を養う、で辛うじて社会と繋がっていたギウが、生き甲斐を無くして、辛い過去だけが残る。
自暴自棄が流入して、世間を騒がせる人に。

監督が将来に対する恐怖から生み出した映画。物乞い詐欺するギウとその家族の姿は想像の産物ではなく、実際に韓国で起きている現象。
彼らの姿に自分を重ねて「怒り」を表現したかったのが、終盤の展開の根底にある。

『落下の解剖学』『ザ・ホエール』『アフターサン』
最近の家族映画は“旦那の死”がトレンド。
(……わたしが「家族素晴らしい!」映画をスルーしている可能性が高いけど)

『マスクガール』もそうだけど、韓国の男性は「愛する人のために死ぬ」願望が強くて、ここだけちょっと体が受けつけない。
・責任をとって死ぬ。
・上手くいかなければ死ねばいい。
など、自殺がはびこっているので、同時に「死んでくれ」と、周囲の圧も強い。
OECD加盟国の自殺率順位1位なので、
いい加減、「生きる大切さ」を説く方に舵を切ってほしいとは思う。

ギウは大した罪を犯していないのだから、衝突する山場の後に出頭。刑期を終えたら、商売に合流してほしかった。

話は少し逸れるが、本作に出会うまで、話題作、高評価作、有名人のお勧め作をどれだけ見流したか分からない。食べつくしそうな勢いだが、どれもピンとこなくて絶望的。
韓国映画があって良かった。
どこで止めても絵が綺麗。イベントも豊富で中身が濃い。
何より見ていて楽しい。
舌の肥えた映画オタクの鑑賞に耐えられる本物の味を提供してくれる数少ないブランドだ。
国内の常識にとらわれず、世界に視野を広げて、もっと自信を持って生きてほしい。
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