ビンさん

マンティコア 怪物のビンさんのレビュー・感想・評価

マンティコア 怪物(2022年製作の映画)
4.0
旧シネ・リーブル梅田こと、新生テアトル梅田で初鑑賞の作品は、2014年の映画『マジカル・ガール』がセンセーショナルだった、スペインの奇才カルロス・ベルムトの最新作。
『マジカル〜』で、独特な世界観を展開したベルムト監督なので、今回も相当にエキセントリックなんだろうな、とワクワクしながら観たわけで。

ゲーム・デザイナーのフリアン(ナチョ・サンチョス)は、ゲームに登場する架空のモンスターを描く仕事を自宅のマンションでこなしている。
ある日、近くの部屋で火事が発生。
フリアンはその部屋の住人である少年を救出するが、それがもとでパニック障害になってしまう。
一方、知人のパーティに招かれたフリアンは、そこでディアナ(ゾーイ・ステイン
)という女性に出会い、一気に惹かれていくのだった。

ん?
これの何がエキセントリックなんだ?

映画はディアナに惹かれるも、なかなか一歩が踏み出せないフリアンのもじもじぶりが描かれて、あれこれあってようやくベッド・インにまで進むのだが、まぁ、そこは映画を観ていただくとして、とにかくフリアンのやきもきぶりが、なんというか憐れである。

ってなことを思っていたら、物語は意外な到達点へと進んでいく。
本作のタイトルである『怪物』とは、いったい何を、誰を、指しているのか?
それは映画を観終わって、劇場を後にする頃にじんわりと脳裏に浮かんでくる。
そう、それが「答え」なのだ。

『マジカル〜』ではいきなり長山洋子のナンバーが流れたり、エンドロールではピンク・マルティーニのバージョンによる『黒蜥蜴の唄』が流れたりと、日本への造詣の深さを披露したベルムト監督。

そっちの方も興味津々で観ていたが、日本ではないが、フリアンが観に行く映画が『ファンタスティック・プラネット』とは嬉しいじゃないか。
それを観に行ったら、たまたまディアナもその映画を観ていた、なんてまるでラブコメかよ、みたいな展開だが、自分の好きな映画を、好意を持っている相手も観ていた、なんてのは映画ファンにとっても理想的なシチュエーションだ。

やたら寿司を食べる(見たところスーパーのパック寿司のようだが)ところとか、伊藤潤二の漫画云々というセリフや、フリアンのスマホの着信音がカプコンのゲーム「魔界村」だったりと、やっぱりいろいろ日本文化を盛り込んでいる。
フリアンが助けた近所の少年が弾いているのが、ショパンの「前奏曲第7番イ長調」といってもピンと来ないだろうが、日本では太田胃散のCMでお馴染みのあの旋律。
まあ、あれはいくらなんでも日本文化という意味で使用したのかはわからないけれど。

そういう小ネタはさておき、今回も『マジカル〜』同様、物語の核心の部分は観客に「見せない」手法をとっている。
無論、登場人物たちは「見ている」し、それによって物語は大きく動く。
とはいえ、欲求不満が残るのではなく、登場人物たちの行動等々から、あれこれ想像することで、作品に深みを持たせるいわば「見せない美学」なのだ。

そういうところもひっくるめて、今回もベルムトは、とんでもない怪作を世に放ったな、と感じた。

ただ、残念なことに、ベルムトは本国において本年1月と2月に女性より性加害で告発されている。
その後の続報がなく、実際のところどうなのかは調査中なのだろうし、こうして日本において無事公開されたのは嬉しいが、正直複雑なところではある。

あまり詳しくは書かないが、本作を観終わった後ではより複雑に感じてしまうのだ。
ビンさん

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