フロントスカイ

葬送のカーネーションのフロントスカイのレビュー・感想・評価

葬送のカーネーション(2022年製作の映画)
3.8
隣国トルコで最愛の妻を失ったシリア難民である祖父ムサ。亡き妻希望でその亡骸を祖国の地に埋葬するため、内戦で両親を亡くした身寄りのない孫娘のハリメとともに遺体の入った棺桶を運びながら内戦の続くシリアを目指すロードムービー。

ほぼ喋らない主人公二人が祖国シリアに向けて棺とともに淡々と旅をするという内容をシンプルで極端に虚飾を排した演出とともに寓話性を感じさせる。
殺伐とした同じ風景が延々と続くトルコの荒野を背景にキャスター付きの棺を引き摺り移動するロングショットのシーンが美しい。
野村芳太郎監督の『砂の器』で、父子が海岸を歩む叙事詩的なシーンを思い浮かべた。
結婚式(現実)で始まり→妻の葬送→死→妻との幻の結婚式(再生)で終わる。宗教的な死生観を寓意的に表現したのだろうか?
ハリメが何気ない日常を描く絵が切ない。世の中から争い事をなくしたいものです。誰も幸せになれないのに...

このシンプルで独創的な作品を生み出したのは、トルコの新鋭ベキル・ビュルビュル監督。今後が楽しみ。