けいすぃー

aftersun/アフターサンのけいすぃーのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.4
映像を観るという行為は、それ自体に意味を孕んでいる。映画であえて描かなくても表現できるものはあるという美学をみた。
ポスターのコピーはマジで蛇足なので、読まない方が良い。観る予定の人はまっさらな状態で映画館へ行くことをオススメする。このレビューも然り。

まず、映像が綺麗だ。色合いについてはわざわざ言及するまでもなく、画面の作り方が面白い。反射や映像を通して間接的にみせる(ストーリーとも呼応してくる)、遠景近景を使い分け、ピント送りで観客の視線を誘導する、画面を右左に分けたり絶妙なパンを利用して観客にものを発見する楽しさを与えてくれるなど、さまざまな工夫が見られた。

物語りの序盤で、離婚して娘となかなか会えない父が旅行に来たのだと悟ることができる。だが、そこからしばらく何を描きたい作品なのかがよく分からない時間が続く。注意深くみていると、その行動や言葉すべてが綿密に考えられていて、調節的には描かれていない、父と娘が言葉としては交わしていないものが浮き彫りになってくる。
例えば、グラスゴー(それかエディンバラだったか?)は日光が足りないという父のセリフ、楽しく過ごした日でも家に帰ると疲れて気持ちが落ちる日があるよねといった娘に何も言えなかった父の様子から、恐らく父は鬱か何かしら精神の不調があることが予想できる。他にも船でガイドと話したあとに「自分はまだ30歳だということに驚く」や「故郷は一度離れると帰る場所じゃなくなる」といっているのも、彼の生きづらさを表している。
娘に対して「お父さんには何を言っても良いんだ」語る彼だが、彼は娘に対して何でも言えた訳ではなかったようだ。父は娘に触れられたくない心のひだがあり、たまにそれに触れようとする娘を執拗に突き放した。

いくつか不可解なことや、好みではなかった部分もある。
まず、恐らく娘の精神世界を描いている、印象的なシーンはなんだかよく分からなかったし、アンダープレッシャーのようなめちゃくちゃ有名な曲に物語の解釈を委ねてしまうのも少しチープな気がした。
それから物語の序盤から、思春期に差し掛かる娘が性に対して興味を抱いている様子が描かれていた。そもそもそこが主題を少し邪魔しているような気もしたし、悪夢から起きた現在の娘の横に寝ているのは女性だったが赤ん坊の声が聞こえたのも、ただ物語を複雑にしているだけに感じた。そこに何か意味づけがあるにしても、僕はよく分からなかった。
けいすぃー

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