あーさん

フェイブルマンズのあーさんのネタバレレビュー・内容・結末

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

スピルバーグの作品は、シリアス系の「シンドラーのリスト」、大好きな「E.T.」他「ジュラシックパーク」「カラー・パープル」等8作品ほどしか観ていないが(というのも、1998年「プライベート・ライアン」〜2017年「ペンタゴン・ペーパーズ」までの約20年間は、子育て期で所謂"失われし20年"by滝和也さん なのだ…)、私の中では"作品の振り幅が大きくて、どれも間違いない"というイメージがある。

彼がどんな人生を歩んできたのか?映画との出会いは?どんな家族や学校時代?興味津々だった。

151分という少々長尺の中に所狭しと描かれているのは、主に家族パート(両親の事、自分と両親との関係)、映画のパート(出会ってから仕事にするまでの事、どんな作品をどんな風に撮っていたのか)、学校時代のパート(いじめやコンプレックスとの闘い)の3つ。
そのどれもが私の心をしっかりと捉え、夢中で観ているうちにあっという間に終わってしまった。

冒頭の初めての映画館後のエピソードは、偉大な映画監督になる片鱗が窺えて、さすがだなぁ、、と思わされた。息子の興味を見逃さず、夫に内緒で8ミリビデオを渡した母はさすが!
こだわりの強さは後に出てくるパニックとも繋がるように、彼はいわゆる発達障害だったらしい(自身がアスペルガー症候群、後にディスレクシア=学習障害も抱えていたと告白している)。

アリゾナではのびのび暮らしていたフェイブルマン家だったが、父の転勤先のロサンゼルスでは都会っ子に転校生でユダヤ系である事や外見等でいじめられるも、ちょっとヘンテコな彼女ができたり、おサボりデー(奈津子さん…このネーミング⁉︎)で繰り出した海辺で皆が楽しむ様子をビデオカメラに収め、ちょっとしたスター気分を味わったり。。(一見カッコよくてスポーツ万能の同級生ローガンが悔し涙を流しながら怒る件は、少しわかるような気がした。本当の自分とは違うキラキラした姿を皆の前にドヤ!とばかりに映し出されて、恥ずかしかったんだと思う。私自身も(本当は違うのに)見た目で落ち着いてるとか何でもできそうと思われて、その為に弱さを見せられず苦しい思いをする事が多かった。映像は、時として意図していない事をも映し出してしまう。魔法とも魔力とも言える…)

大学は寮生活でまたもや弾かれて、父に勧められたそちらの道は諦めることになるが、ここから先映画監督への道を歩き始めることになるスピルバーグにとって、その方が良かったのだ!(叔父さんにボロボロになるぞ、と脅されたけど…)

ラストの急展開と短いながらも印象的なシーンは、、いやぁ…参りました!
まさかの巨匠登場、それを演じてるのが!!さすがの演出だなぁ。。そして、あの忘れられない地平線のセリフ。

まるで青春物、映画少年の話、家族物、三本の映画を同時に観たような気分だった。

寡黙で優秀なエンジニアの父とエモーショナルでいつもドキドキさせてくれるピアニスト(を諦めた)母。
両親のそれぞれ良いところをスピルバーグは受け継いだのだなぁ。
それは、作品に如実に現れていると思う。
両親の離婚は子ども達にとってとても衝撃的で悲しいものだったけれど、相入れない夫婦が無理をして一緒にいる事は決して家族に良い影響を及ぼさないから、致し方なかったのだろう。
あの時代の夫婦にありがちな、親の勧めでした結婚だった。適齢期になれば結婚しなければならない、という空気に負けてしてしまった結果、ずっと不仲に苦しんだ人は国を問わず殊の外多い。(うちの母もその一人…)
一人一人は悪くないのに、一緒にいると空気が悪くなる。水と油。何故なら、相手を認める事は自分を否定する事になるから。
ハメを外し過ぎたサミー(主人公=スピルバーグにあたる役)の母ミッツィを見る父バートの諦念にも思える表情、楽しくてはしゃぎたくなる気持ちを置いてけぼりにされるミッツィのやるせない翳りの表情。。周りが困惑しても止められない夫婦喧嘩。
まるで、かつての自分の両親を見ているかのようで、胸が痛くなった。サミー、わかるよ。
離婚してもしなくても、合わない二人には違いない。ただ、ミッツィは、あのままだったら体を壊してしまっていただろう。"誰のせいでもない雨が降っている"… 別れる他なかったよね。父親の友人ベニーの存在がなければ、もっと早くミッツィはダメになっていたかもしれない。

→ここからしばらく全く自分ごとになります💦
結局父が亡くなるまで添い遂げ、持ち堪えたうちの母(金婚式も祝った)だったけれど、今では亡き父のことを懐かしく思い出す事はあまりなく、ひたすら自分の余生を楽しもうとしているように見える。まるで、我慢していた日々を取り戻すかのように。。
両親が仲良くしてくれていたらそれに越した事はないし、それは理想だと思う。でも、今はそうではない夫婦もたくさんあると悟った。そう言えば、父方の祖母だってかなり我慢強い人だったけれど、破天荒な祖父と夫婦仲は良くなかった。でも、父はそれを悪く言ったことはない。
誰が悪いとかでなく、葛藤や苦しみもまた人生の一部。子どもへの影響も、然り。だから、私は両親を反面教師に、真逆の生き方をしてきた。子ども時代はずっと辛かったけれど、それはそれで仕方なかったし、父や母から受け継いだものを私は自分で受け入れているし、二人を誇りにも思っている。
ただ、誰しも良いところと嫌なところ両面あるもの。それが人間らしさかな、と。

スピルバーグもそうだったんだろうな。葛藤や複雑な気持ちはありながらも、父親のことも母親のことも愛している。自分の中に同じ要素もあるわけだしね。
映画を撮る中で、その葛藤や苦しみを昇華して作品という芸術に仕上げたのは、本当に素晴らしい!

だから、最後に父と母の名前がクレジットされていたけれど、両親が亡くなってからでないと公開はできなかったのだろう。(母親にはこういう趣旨の映画を撮ってもいいかどうか、確認している)

"すべての出来事には意味がある"というミッツィの言葉が、今作の、そしてスピルバーグの人生を真正面から全肯定している事を思い、涙が止まらない。。

父親を演じたポール・ダノ、母親を演じたミシェル・ウィリアムズ、そしてサミーを演じたガブリエル・ラベルの演技が、本当に素晴らしかった。(三人の妹たちも可愛かった♪)


まごう事なき"人生讃歌"。

こんな赤裸々な作品を勇気を出して撮ってくれてありがとう!

スピルバーグ監督、やっぱり大好きだ❗️
あーさん

あーさん