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フェイブルマンズのドントのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.8
 2022年。幼年期に映画館の暗さに怯えていた子供サム・フェイブルマンくんが『地上最大のショウ』の一場面に一発でヤられ、カメラを与えられフィルムに作品や「現実」を刻印し続けながら、父母の不和や家族のひび割れ、青春などを経験しながら成長していくフィルムバカ半生記、映像作家デビュー直前まで。
 言うまでもなく監督であるスピルバーグの自伝的映画であり、それゆえ大破壊や殺人や戦争などは出現しない大変に地味な映画であるのだが(竜巻は出る)、主人公が撮るものには大破壊や殺人や戦争がガンガンに出てくる。なんせ冒頭からして「みんな……大破壊……好きだよな?」というシーンであり、むろん我々は大破壊が好きなので「うん!」と返事をしてカメラ小僧の物語にグーッと引き込まれることになる。
 起こるトラブルは家庭の不和や高校でスポーツマンどもにいじめられるなどのスペクタクル感のない出来事だけれど、もはやなんというか円熟味のある演出、照明、カメラワーク、編集によっておそろしくスルスルと見せられてしまう。150分というのは信じられない。夏場のソーメンのようにスルスルいけてしまう。
 一方で自伝的映画と言えどさすがに起伏に乏しいというか、スルスルいける割に全体としてはデコボコしていてぎこちなく、映画としてはもう一発なんか欲しかったところ、という欲目も出てくる。しかしこのスルスルなのに違った食感も残るというのもまたスピルバーグの諸作品に連なるものだろうという気もする。またこれは、深い意味はない指摘であるが、画面に映るのが白人ばかりの新作映画は久しぶりに観た。
 映画の魔術にとりこまれた繊細な少年の物語として、「芸事は冥府魔道! お主は芸術と家族の間で引き裂かれる!」という恐ろしさ(これを言った人物は作中で起きたことのような意味で言ったのではないと思うが……)や、「カメラで切り取り、記録すること」の雄弁な残酷さや無慈悲さも含めて語った一本であり、技術は行き渡っていてしかもその技を感じさせないくらいの余裕すら見せるが、その語り口は極めて優しい。いじめっ子だったスポーツマン氏にすら優しい。
 その悠々たる雰囲気に浸れるいい映画であると同時に、だいぶオチツいてしまったなぁ、という寂しさもよぎる。しかし終盤とラストショットは主人公=監督・スピルバーグが「ボク、がんばります!」と宣言する熱いシーンであったと思うので、スピルバーグにはアレですよ、次はバチンと強烈なのを撮ってほしい。そうだな、サメ映画なんかどうですか。
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