salmondaisuki

正欲のsalmondaisukiのネタバレレビュー・内容・結末

正欲(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

正欲みた

「ひとりじゃないといいね」


原作とは違った良さがあった(原作を読んだのがだいぶ前だから、思い出しながら観るような感覚もあったけど)。

今映画を見終えてから思うと原作では、
①「この世界を生きるために、手を組みませんか?」(ちょっと違うかも)のあたり
②ラスト、誰も何も口を割らなかったこと
が1番印象的だったし、心がぐおおおんって掴まれたと言うか揺さぶられた感じがしたことを思い出した。

映画では、
①検事の妻が、息子のことをなんでわかろうとしないのって泣き叫ぶ→息子がママのことをいじめないでっていうシーン
②ひとりじゃないといいねという祈り、願い、「ひとり」というワード
③「佐々木くん、いなくならないで」のワードとそのときのプールに取り残されるような描写
④桐生と佐々木の高校時代に校舎裏の蛇口を壊したシーンが美しすぎた
⑤大学の教室でのやりとり
そのあたりが一番ぐううううって来た。

①が響いたのは、勝手に、自分が2年前くらい?に死にたくなった時をすごく思い出したから。家族が自分をわかろうとしてくれて、光希のことはわかれないけどわかりたいし生きていてほしいと思っていると伝えてくれた/伝わってきたことが重なった。なんでかわからないけどすごく重なった。とうとうにメンタルがしんどいこと、すごく辛いことを伝えた光希の部屋でのやりとりとか、家族が誕生日を祝ってくれた恵比寿の帰り道で、みんなよりも速く歩いて、みんなの知らないうちに轢かれていなくなりたいと思ったこと、そのときみんなが速く歩いてついてきたこと、どこまでも放ってくれないことがすごく憎かったこと、今となればそれがありがたかったと思うこと。わかろうとしてくれる人、ひとりにしたくないと自分のことを守ろうとしてくれる人の大切さというかありがたさを感じた。
→このシーンでこの映画初めての涙が出たし胸をおさえた。原作を読んでる時には、もっと性欲とか性癖について思うことがたくさんあって衝撃を受けたしこの作品が好きだ、こういう作品に出会えて良かったと強く思ったから、この時点で、映像化することのすごさを感じた。映像として見てると、自分が前に気になったことじゃないところも響いて見えた。
②原作を読んでいた時は、「ひとり」ってワードがこんなに引っ掛からなかったと思う。ひとの口から出て、何度も印象に残ることがあるんだな、読むだけじゃなくて。
③②とつながるけど、ひとりじゃないと思って縋り付いていた存在が、急にいなくなることの怖さを、ひとりじゃないという安心感が絶大であることとセットに超感じた。私も、ひとりになりたくないと思った。ひとりにならないために、なにでひとと繋がっていたいのか、これから考えたいと感じた。
④青すぎた。とても綺麗だった。あんな感じで、制服に身を包んだ男女が、水に濡れると、エロというか性愛を伴った青春って方向に短絡的に持っていかれがちだなあというのを、このシーンの美しさを見ながら、この映画だからこそ対比して感じられた。
⑤ 偽善者にも、ひとのことを勝手にわかった気にもなりたくないけど、同時に、その人が自分にとって大事なとき、そのひとがひとりじゃないことを願える人でいたいと思った。「私があなたのことを理解して、私があなたのことをひとりにはさせない」なんて言うことが図々しすぎること、これからの人生にたくさんあるんだろうなと思う。そういう時、ほんとうに私にとって相手が大事なひとなのであれば、私がどう頑張っても相手を理解できない時には、相手が私ではない誰かわかりあえる人といることで、ひとりにならないことをただただ心から願いたいと思った。あのシーンに転がっていた言葉が最高だった。

あと、気になった点。
①映画を見ていて初めて音が気になった。音楽とかサウンドエフェクト?が合っていないなあ、むずむずっていう気持ちに初めてなった。これを考えると、「寝ても覚めても」のtofu beatsがとんでもなかったことに気づく。あの音にどれだけストーリーの深いところに連れて行かれた感覚がしたことか。今回は、エンディングの曲もあんまりって感じだし(歌詞見たらまた感じること変わるのかもだけど)、どっかのシーンのサウンドエフェクトはだいぶ浮いてる気がした。音ばっかり大きいなみたいな、シーンとの調和?がない感じがした。映画に詳しくもないのにこんなことを思ってすごい申し訳ないけど、前までこんなふうに映画を見て感じたことが全くなかったから、この最近で“前よりは“映画を見るようになったんだなあ、こういう形のインプットもやはり大切ねと思った。(特に、寝ても覚めてもを観た時には、ただのホラーじゃん、怖かったとかしか思わなかったのに、今思い返して音に思いを馳せてる、これって(あくまで私にとっては)すごいことだと思う)
②エンドロール、個人的にはガッキーと磯村くんの名前から始まってほしかった。ポスターも、五郎氏とガッキーだったと思うけど、なんかそれは違うと思った。このなんかは、村田沙耶香が言ってた「なんか」の用法の「なんか」。何だか言い表すことはできないけど、とにかく私にとって相当(というか、なんなら最も)重要な気がした。

一旦終わり!
とにかく、原作だけじゃなく、映画も見てよかった!

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2023/12/16 人の感想見ていて追記
原作になかったカニクリームコロッケ落とすシーンよかった。
ガッキーが、やっと留学してるような感覚だった世界から「ふつう」だと「当たり前に」認められているように感じて嬉しそうで。とれたてクラブさんのジンで泣いた、こんな絶望しちゃう世界の中で生き延びるためにマジョリティによって用意された制度を利用することもしていいんだよ、って言ってたシーンを思い出した。恋愛感情で繋がっているわけではないふたりの「結婚」を通して、ふたりが1人じゃない感覚を得られているのは喜ばしいこと。