寂聴さん繋がりで。原一男監督による作家井上光晴のドキュメンタリー。
謎の演芸から着流しの正月の宴会と、なかなか異世界じみた光景を見せられる。たったと言って良いのか、たった30数年前。
親友、埴谷雄高に「彼の書く時間を削っている」と言わしめた文学伝習所。
女性達の心酔振りには若干いや結構引きながら「何がそんなに」と見続けていると、祖母の言う「嘘つきみっちゃん」が現れてきた。
彼の周りは現実が虚構になり、虚構が現実になる、どうやら起伏が大きいらしい。すぐに溶けてなくなってしまうような現実がいきなりカウンターパンチを繰り出してくる、その痛みが、その無力がやみつきになる。
殿は抗う。殿はお戯れになる。殿はフィクションに意識的だ。
炭鉱の霊媒の話は本当だろうか。
奥さんと井上さんの顔が似て見えた。奥さんを相手にする時だけ、サービス精神が無になるからある意味安心して見ていられる。
初恋が幻想的な娼婦の音楽隊を生み出した。井上さんの虚構を故郷の海に重ねて見せるのはとても良かった。美しいじゃない。