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ロスト・キング 500年越しの運命のhasisiのレビュー・感想・評価

3.8
スコットランドの首都、エディンバラ。
フィリッパは、働きながら子供2人を育てる中年女性。
筋痛性脳脊髄炎(ME)を患っており、それを理由に、職場では後輩に先を越されていた。
別居中の夫、ジョンが頻繁に訪ねてくるのだが、生活費を稼ぐために仕事をつづけるよう促される。

そんなある日、子供の付き添いでシェイクスピアの劇「リチャード3世」を鑑賞したのだが。
背中の曲がった容姿、子殺し、簒奪者として描かれる彼の姿に同情。真実の姿が他にあるのでは? と研究にのめり込んでゆく。

監督は、スティーヴン・フリアーズ。
脚本は、スティーヴ・クーガン。ジェフ・ポープ。
2022年に公開された伝記映画です。

【主な登場人物】🏰🐎
[R・テイラー]副学長。
[R・バックリー]考古学者。
[シーラ]市議会の委員長。
[ジョン]旦那。
[ジョン・A・ヒル]歴史家。
[フィリッパ]主人公。
[リチャード3世]

【概要から感想へ】🫖🛋️
フリアーズ監督は、1941年生まれ。イギリス出身の男性。
1971年に長編デビュー。
今回が24作目。なんでも撮りますがコメディが多め。2010年代に入ってからは伝記中心です。

脚本のクーガンは1965年生まれ。イングランド出身の男性。
俳優で、コメディアンでもあります。
今回はフィリッパの夫、ジョンの役で出演しています。

もう1人の脚本、ポープは1961年生まれ。イギリスで活動する男性。
3人は、子供を探す老夫婦を描いた『あなたを抱きしめる日まで』(2013)を製作したチームです。

原作は、フィリッパ・ラングレーとマイケル・ジョーンズが2013年に発表した、
『The King's Grave: The Search for Richard III』

フィリッパは、1962年生まれ。ケニア出身で、国籍はイギリスの女性。
この作品の主人公として描かれています。

最近はマイナーなドラマ映画が苦手だと分かった。どうもコメディの方が好きらしい。
高評価映画を大量に流し見しつつ、これもまったく期待していなかったのだが。

👑〈序盤〉👩🏻‍💻🪑
更年期障害。
女性が主人公だけど、中身は小父さん。
にやにや眺めるが、映画を撮るのが上手くてアイデアも豊富。
ヒロイン願望のある女性を自虐ネタで描くなんて面白い。
主人公にツッコミまで入れて、客観性もある。

歴史上の人物に恋する中年女性の物語で『アラビアンナイト 三千年の願い』のように幻想的な立ち上がり。
Wikiで実話だと知り、「は??」
「町山さんがラジオで紹介していた映画だ」と思い出した。
(沢山観て厳選しているのだろう、当たりが多い)

[リチャード3世]🫅🏻
1452年-1485年。
ヨーク派、最後のイングランド王。
ランカスター派のリッチモンド伯ヘンリー・テューダーと王位を争う。
ボズワースの戦いで自ら軍を率いて戦死している。

キャスティングの勝利。
フィリッパを演じるサリー・ホーキンスが、身近にいる忙しく働いて家庭を支えている女性たちと同じ顔をしている。
趣味を見つけ、コミュニティが広がってゆく過程も現実そのもので引き込まれる。

リチャード3世に恋する歴女の旅。
「世界ふしぎ発見!」が好きであれば。

👑〈中盤〉🌳⛲
穴掘り。
旅の目的が明確化するが、雲を掴むような話。
まるで都市伝説に取り憑かれた人のよう。
狂人と紙一重で、フィリッパのありのままを描けば、コメディに。

夢を追いかけてゆくが、実話なので「渡りに船」などの甘さは控えめ。成功者の例にもれず、積極的に動きつづける。
その過程で、熱量に押された人物が協力してくれる。

昔であれば埋蔵金。
現代であれば、天然資源の発掘に向けて投資する起業家とよく似ている。
未開の地に向かって、信念で掘り進めてゆくなんて、平凡な精神ではとてもやり遂げられないだろう。

👑〈終盤〉👷🏻‍♀️®️
オカルト。
通常は、建設現場から、古代遺跡が発掘されるものだが、順番が逆。
逸話として残っているから、日本にも映画が届いているのだろうけど。掘って何も出てこなかった人達が無数にいるのかと思うとぞっとする。

世界の様変わり。
なんだかんだ理由をつけて、周囲の対応に変化が生まれる。
成功すると、それまで名前すら出してくれなかった人たちが近づいてくる。
嫉妬してアンチにクラシスチェンジする人もいるので、悲喜こもごも。
現実の世界で散々味わっているので、うんざり。具合が悪かった。

【映画を振り返って】⛪⚰️
「実話です」は、ファンタジーを魅力的にするパワーワード。
妄想癖があって古代ロマンに興味があればお勧め。

☔ドラマ映画の序盤は鬼門。
コメディで始まってまんまと騙された。
後半に行くにしたがって、ドラマ色が濃くなる。
お陰で何とかゴールできた。
不誠実だとは思うが、今年に入ってからも何本途中で離脱したか分からない。
コメディアンを助っ人に呼び、笑いで退屈を吹き飛ばすのは有りかも。

🪟演出の上手さ。
フィリッパに密着したドキュメンタリーのような内容だが。フィクションで培った絵作りで、退屈しないよう工夫されている。
ギャップを生み出すのも上手く、場面ごとに何かしらアイデアがあるので、上質なものを体験している充実感がある。

とくに霊的な存在であるリチャード3世との絡みが絶妙。
フィリッパが延々と空間に向かって話しつづけるのだが。脳死して周囲のリアクションで笑いにすると、ミステリアスではないので退屈に。
リチャード3世に敬意を払い、恋する人を思うように。
溜めを生み出すのに2人きりの時間が効果的に機能していた。

👨🏻‍🦳旦那が話し相手。
どちらかと言えば悲観的。なのだが、門番の役割ではなく、協力的でもない。
あくまでも聞き役としてフィリッパを見守っている。
大人の付き合い。
ツンデレだとは思うが、ツン率が高い。とくに不愛想な表情で。
腹立たしいような気もするし、よき理解者でもある。まさに家族だった。

🏳️信じた方向へと導く。
監督は、学術機関で不当な扱いを受けているフィリッパに正当な評価を与えるために、この映画を撮ったのだとか。
それはまさに、フィリッパがリチャード3世に抱いた感情そのものであり。
3人の意思が共鳴した結果だと言えるだろう。

その弊害として、実在の人物が悪役のように描かれていて、本人からは「名誉棄損だ」とクレームが入っている。
劇中では、できるだけ公平に描こうと気遣われた痕跡が見て取れるので、わたしは不快な印象は受けなかった。

2024年のドラマ『大奥』では、松平定信がサイコとして描かれているのだが、子孫と付き合いのある身からすと、気分のいいものではない。
伝記は、描き方次第でいかようにも印象付けが可能なので、実在の人物を描く際は、本人やその家族に迷惑がかからないように配慮してほしい。
リチャード3世のような人物が、あの世で心安らかに過ごせるように。
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