のすけ

福田村事件ののすけのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.5
1923年に起きた実際の事件の映画化。
朝鮮人が復讐に来るというデマを信じた村人たちが自警団を作り大人から子供まで次々と誤想防衛で殺してしまう。

なんとも言えない気持ち悪さ。なぜこんな酷いことを‥
その誤想も、普段から朝鮮人を馬鹿にし酷い扱いをしてきたからこそ生まれるものであり、「関東大震災で大きな被害を受けている最中に朝鮮人に復讐されたらやばい、、、されるのでは?」という誰かの不安からくる思い込みによって、そのデマが独り歩きし、閉鎖されたコミュニティ内で高速伝染、集団心理で一気に爆発し歯止めが効かなくなったと推測できる。

加害者(自警団)の数、映画内では数十人だったと思うが、Wikipediaを見ると200人。とんでもないことになっていたのだろう。

殺した人達が皆日本人だったことが分かると加害者の1人が「お国のためにやったんだ」と泣き崩れ、それを妻が寄り添い「あんたはよーやったよ」と何度も慰めるシーンが個人的に1番胸糞悪かった。
「お国のため」「日本人として」というのはほんと都合のよい言葉で、戦後混沌とした時代においてはお国のために戦うことが正義とされその中で自警団が発足。
戦争と同じく誰かが勝手に決めた正義を盲目になってひたすら信じ込み、無心でそれを達成させようとする。
「人を殺すのはお国のためである」「お国からの使命である」。戦争ではないのに、戦争と同じ思想を持ち出し、お国のためと言いながら結果的にお国を盾に卑劣極まりない虐殺を行ったということだと思う。そもそも戦争を肯定する思想がこの歪みを生んでいるとも言える。

やっていることはあまりにも滑稽すぎるが、残虐すぎてもちろん笑えない。

誤った思想‥
集団心理の暴走‥
空気の支配力‥
手段の目的化‥
アドレナリン‥

明らかに間違っていても誰も止められないからこそ恐ろしい。

現代で言うと、私人系逮捕YouTuberが少し前に話題になったが、あれだって複数人で暴走すれば行くところまで行ってもおかしくない。もっともらしい正義を盾に簡単に論点をずらされてしまうから怖い。

自民党のキックバック問題だって同じ。「政治活動費のためだ」と言い、あの人もこの人も‥やってはいけないことに簡単に手を染めてしまう。「みんなでやれば怖くない」状態。

現代においてもそういった闇が近くに潜んでいるかもしれない。いつの間にか自分がこの自警団の一員になってしまっている可能性だってある。
自分自身が生きていく上で、常に本質を見据えブレない軸を持たなければ誰だって危ういのかもしれない。

『関東大震災に乗じて虐殺された朝鮮人、中国人、社会主義者が6000人もいる』という事実が最後のテロップで伝えられる。
この事件で誤って殺された日本人9人の作品を長々観せられ「うあー‥ひどい‥こんなことがあったなんて‥」と浸っている自分に最後にやってくるカウンターパンチ。
映画に罪はないのは大前提だけど、作品の中身は『朝鮮人と間違えられて殺された日本人9人の物語』だ。最後に伝えられた外国人の虐殺6000人という数字が、皮肉を超えた強烈なカウンターパンチに思えてならなかった。
このテロップをさらっと読んで終わる人、衝撃を受ける人、知ってた人知らない人、いろいろいると思うけど、作中で殺された人が自警団に対して言っていたように「朝鮮人なら殺してもええんか?」と自分に言われたようだった。
その瞬間、殺すのを必死に止めようとする村人と同じ視点で観ていたはずが、いつの間にか自警団側にいたのか??と面食らった。
この事実(外国人6000人虐殺)を知らない時点で‥日本人9人の誤殺を題材にした映画を観て「酷い話しだ」と他人事で観つつその背景にある6000人の虐殺をさらっと伝えられ知らない&たぶん「そうなんだー」と流して終わる人が大半であろう現実。
この作品自体が誤った思想の代弁者であるとすれば、私含め多くの人々がこの自警団と同じ思想で鑑賞し、危うい集団心理の最中に今いることに気づいていないのかもしれないと感じた時が1番恐ろしかった‥


映画について
大好きな題材の映画でしたが、作り込みはもう少しかなと感じました。
地震前が長くて、地震そのものと地震後の混沌の描き方が薄めなので、ラストシーンへの入り方としてはこれがベストだったのかちょっと疑問は残った。
あとは新聞記者の視点から描かれた作品なのかもしれないが、夫婦愛の余計(?)なプロットが入り込むため最後ぼやけてしまった印象でした。