ブルームーン男爵

METライブビューイング2022-23 モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」のブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

4.5
METライブビューイングとは、ニューヨークにあるメトロポリタン歌劇場で上演されるオペラを、映画館上映する企画である。毎年実施しているが、世界最高レベルのオペラを映画館で割安で鑑賞できるとあって、なかなか満足度が高い。おまけにライブビューイングだと指揮者や演者のアップがみれるのも良い。さらにはインタビュー付きという贅沢さ。

半年ほど前に行ったブルース・リュウ(ショパンコンクール優勝者)のピアノコンサートでF.リストの「「ドン・ジョヴァンニ」の回想」を聴いて、モーツァルトのドン・ジョバンニは観ないとと思っていたが、ちょうどMETライブビューイングで上演されていて良かった。

台本はロレンツォ・ダ・ポンテ。ドン・ジョヴァンニはスペインの伝説の放蕩者ドン・ファンの物語の主人公。女好きな主人公の放蕩ぶりが名曲に彩られて描かれ、最後は地獄へと落ちていくのだが、オペラ・ブッファとは思えないほどに、地獄落ちの場面が重い。今回の演出ではタイトルの「罰せられた放蕩者」に着眼して、より主人公の性犯罪性を強調する演出となっており、重々しさが増している。舞台美術もエッシャーの騙し絵をモチーフとしているらしく無機質で冷淡。舞台も21世紀であり、貴族的な服飾やオペラらしい華やかさは息をひそめている。ただ名曲の持つ魅力はそのままであり、新解釈の演出はとても刺激的で良かった。